後日、すみれちゃんからメッセージが届いた。
「先輩の動画、泣きながら見ました。
先輩の気持ち、いっぱい届きました。
本当にありがとうございます。
これから何度も見返します」
その内容に続いて、離婚が成立したことの報告を受ける。
わたしは皮肉まじりにこんなメッセージを送った。
「世間はね、結婚を一度もしないまま独身でいる人間より、一度結婚してから離婚して独身になった人間に対しての方が、信用が高いんだよ。
すみれちゃんがその信用を持っている事実だけは知っていてね」
まあ、わたしにはないものだけど、それがなかったところで何も困ることはない。
そういうものはわたしの幸せに必要ないからだ。
だけど、彼女がほんの少しでも離婚したことに前向きな気持ちを持てるように。
そういう意味で、わたしはいわゆる世間的には負け犬なのかもしれない。
わたしに勝ちたいならいくらでも勝たせてあげる。
わたしはマウントに屈しないし、他人と比べられて何かを他人から決めつけられても気にしない。
独身貴女の何が悪い。
4月に入ったある日の夕食時、部長がいきなり言った。
「ねえ、私の養子にならない?」
わたしは飲もうとしていたお茶を吹き出した。
「は、え、よ、養子?
わたしが、部長の養子に?」
「そう。
どうかしら?」
自分の心に、どうしたい?と問いかけるのに10秒使ってから、答えた。
「分かりました。
養子になります」
10秒で即答できた自分に自分でも驚く。
「ところで……これって部長が亡くなったら、わたしが部長の遺産をひとりじめすることになりますよね?
他の相続人とか大丈夫ですか?」
即答しておきながら、相続問題に巻き込まれる可能性はあるのだろうかと考える。
「いや、両親も他界してるし、私一人っ子だから、弁護士によると私の財産って国のものになっちゃうみたいなのよね」
「なんだか、自分の財産が自分の死後とはいえ国のものになるのは、抵抗がありますね」
「そうなの!
生きてるときはたくさん税金を払わされて、死んだらさらにそれ以上を国に取られるのはさすがに嫌だなと思って。
国に私の財産を渡すくらいなら、あなたに使い切ってほしいのよ。
その代わり、介護はよろしく」
部長がニヤリと笑って言う。
「そっちのギブアンドテイクでしたかー!」
わたしも笑った。
「それでも……実の両親の介護をするよりマシかもしれません。
血の繋がりがある方が逆にやりづらかったりしますので」
あの母親の介護が自分の未来に待っているかと思うと、わりと真剣に憂鬱だった。
「私も両親二人を看取って、思うところがあったこその養子縁組の提案なの。
もちろん、すぐにというわけじゃない。
3年から5年後くらいかな。
すぐできないわけでもないけど、そうしてしまったら白川さんが部署を異動させられそうだもんね。
さすがに親子が一緒の部署というのは、会社が認めないだろうし。
そうしたら、白川さんを正社員にした意味がなくなっちゃうから」
「分かりました。
じゃあ、『新海恭子』になるのをわくわくして待ってます。
その前に、部長はちゃんとそのときまで元気でいてくださいね!」
「大丈夫。
白川さんのおかげで以前より健康になってるから。
あとね、改姓したら結構手続き大変だからね。
銀行口座とか免許証とかありとあらゆるものを名義変更するんだから」
「そのときはご指導お願いします!」
わたしはニヤニヤしながらダイニングテーブルを挟んで部長に頭を下げた。
「先輩の動画、泣きながら見ました。
先輩の気持ち、いっぱい届きました。
本当にありがとうございます。
これから何度も見返します」
その内容に続いて、離婚が成立したことの報告を受ける。
わたしは皮肉まじりにこんなメッセージを送った。
「世間はね、結婚を一度もしないまま独身でいる人間より、一度結婚してから離婚して独身になった人間に対しての方が、信用が高いんだよ。
すみれちゃんがその信用を持っている事実だけは知っていてね」
まあ、わたしにはないものだけど、それがなかったところで何も困ることはない。
そういうものはわたしの幸せに必要ないからだ。
だけど、彼女がほんの少しでも離婚したことに前向きな気持ちを持てるように。
そういう意味で、わたしはいわゆる世間的には負け犬なのかもしれない。
わたしに勝ちたいならいくらでも勝たせてあげる。
わたしはマウントに屈しないし、他人と比べられて何かを他人から決めつけられても気にしない。
独身貴女の何が悪い。
4月に入ったある日の夕食時、部長がいきなり言った。
「ねえ、私の養子にならない?」
わたしは飲もうとしていたお茶を吹き出した。
「は、え、よ、養子?
わたしが、部長の養子に?」
「そう。
どうかしら?」
自分の心に、どうしたい?と問いかけるのに10秒使ってから、答えた。
「分かりました。
養子になります」
10秒で即答できた自分に自分でも驚く。
「ところで……これって部長が亡くなったら、わたしが部長の遺産をひとりじめすることになりますよね?
他の相続人とか大丈夫ですか?」
即答しておきながら、相続問題に巻き込まれる可能性はあるのだろうかと考える。
「いや、両親も他界してるし、私一人っ子だから、弁護士によると私の財産って国のものになっちゃうみたいなのよね」
「なんだか、自分の財産が自分の死後とはいえ国のものになるのは、抵抗がありますね」
「そうなの!
生きてるときはたくさん税金を払わされて、死んだらさらにそれ以上を国に取られるのはさすがに嫌だなと思って。
国に私の財産を渡すくらいなら、あなたに使い切ってほしいのよ。
その代わり、介護はよろしく」
部長がニヤリと笑って言う。
「そっちのギブアンドテイクでしたかー!」
わたしも笑った。
「それでも……実の両親の介護をするよりマシかもしれません。
血の繋がりがある方が逆にやりづらかったりしますので」
あの母親の介護が自分の未来に待っているかと思うと、わりと真剣に憂鬱だった。
「私も両親二人を看取って、思うところがあったこその養子縁組の提案なの。
もちろん、すぐにというわけじゃない。
3年から5年後くらいかな。
すぐできないわけでもないけど、そうしてしまったら白川さんが部署を異動させられそうだもんね。
さすがに親子が一緒の部署というのは、会社が認めないだろうし。
そうしたら、白川さんを正社員にした意味がなくなっちゃうから」
「分かりました。
じゃあ、『新海恭子』になるのをわくわくして待ってます。
その前に、部長はちゃんとそのときまで元気でいてくださいね!」
「大丈夫。
白川さんのおかげで以前より健康になってるから。
あとね、改姓したら結構手続き大変だからね。
銀行口座とか免許証とかありとあらゆるものを名義変更するんだから」
「そのときはご指導お願いします!」
わたしはニヤニヤしながらダイニングテーブルを挟んで部長に頭を下げた。