レンタルスタジオには1回以上通うことになった。
 楽譜は、今回の曲にはシャープが1つしかついていなかったので何とか読めた。
 しかし、全然弾けない。
 さらに、途中で何度も指がつる。
 わたしの指の筋肉はこんなにまで衰えていたのかと悲しくなるほどだった。
 何度も何度も何度も、左手と右手それぞれで伴奏の練習を繰り返した。
 曲が弾けなければアカペラになってしまう。

 3回ほど通って、ようやく両手同時に最後まで弾けるようになった。
 歌の練習はばっちり終わっていた。
 家でサンちゃんとシイちゃんに聴いてもらいながら練習した。
 連続で練習しすぎて、次の日に多少喉が痛くなってしまうほどやりすぎた。
 猫たちはすぐに飽きて逃げるかと思いきや、意外と長く聴いてくれた。
 やはり聴衆のいる方が心を込めて歌える。

 4回目のレンタルスタジオ。
 歌いながら演奏することに初めて挑戦したが、おぼつかないながらも何とかできた。
 よしよし、この調子でがんばろう。
 数回練習して、どきどきしながら動画撮影の開始ボタンを押した。

 歌詞を口に出すときに、すみれちゃんへの気持ちを思いっきり言葉に乗せた。
 言葉にはそのとき発する人の感情の状態が全部乗っかって届くからね、というMIKEさんの教えを思い出しながら。

 そして、同じ言葉でもきっと歌の方が人には届く。
 それはメロディーの力だ。


 あなたは大丈夫だって、信じてるよ。
 きっとわたしなんて軽々超えて強くなる。
 何とかなるから。
 いつか絶対何とかなる。

 寂しいよね。
 自分はもう誰も人を愛せないんじゃないかって思うよね。
 彼のどこを好きだったんだろうって思うよね。
 一度好きになった人と対立しないといけないしんどさ、あるよね。

 わたしだって、ひとりで出歩くのはそんなに得意ではないよ。
 でもさ、仕方ないじゃん。
 死ぬときは誰でもひとりだから。

 だったら、ひとりでも楽しくなるように生きてやる。
 大好きなものをたくさん見つけてやる。
 わたしは楽に生きるよ。

 この世界には、自分とまったく同じ目線で世界を眺められる人間は、自分ひとりしかいないから。
 それは、寂しいってことじゃなくて、すべての物の見方を自分でどこまでも自由に作り出せるってことなんだよ。
 だからわたしは「世界が自由に作り出せるのなら、さあ、何を作ろうか?」っていうワクワクを体感しながら生きていくよ。

 わたしの幸せは、全部全部わたしが決める。
 そして世界は、わたしが決めた幸せを実現するために、そのとおりに動いていくよ。

 また必ず会おうね。
 遠くにいるけど、いつも思ってるよ。

 あなたが自分の幸せを、外側にいる誰かの声に惑わされることなく、自分で決められるようになりますように。


 動画を撮っては中身を確認してという作業を繰り返して、一番いいと思ったものをメッセージアプリ経由ですみれちゃんに送信する。

 そういえば、彼女の住んでいるところには行ったことがなかったな。
 その事実に気づいたわたしは、ひとり旅行の計画でも立ててみようかと、宿泊サイトのページをスマホで検索し始めた。