42歳、女ひとり暮らしの自宅に空き巣が入った。
珍しく残業して帰宅したら、朝鍵を閉めたはずの家のドアが開いていた。
どきりとする。
たまたま鍵をかけ忘れただけでありますように、と祈りながらドアを開けた。
玄関のライトが自動で点灯する。
出しっぱなしになっていたもう一足のスニーカーが、蹴散らされたかのように乱れていた。
誰かがわたしの家に入ってる。
家の奥をおそるおそる見やると、玄関のライトが照らせる範囲の廊下に、大きな靴の土足痕が白く浮き上がっていた。
恐怖で吐きそうだった。
わたしは急いで家のドアを閉め、外に出た。
身体が震える。
それでもやるべきことをしなければと、震える手で通報した。
「あなたがかけてるこの番号ね、119番だから、110番にかけ直してね」
緊張のあまり緊急通報の番号を間違えた。
家の外で待っていると、パトカーで警察官がやってきた。
ご近所の皆さん、うるさくしてごめんなさい。
野次馬の視線が痛い。
犯人はベランダの窓ガラスを割って室内に侵入したらしい。
窓のクレッセント錠周辺だけ、器用にガラスが割られていた。
なくなっているものがないか、家の中を警察官と一緒に確認させられた。
もともとわたしはミニマリストで、物が極端に少ない。
貴重品がそもそも少なく、預金通帳もペーパーレスだし、印鑑は持ち歩いていたのでその点はよかった。
下着類も盗られていなかった。
でも。
「テーブルの上に置いてあったノートパソコンがありません……」
絶望的な気持ちでわたしは答えた。
その後すぐに始まった実況見分が終わると、パトカーに乗って移動させられ、さらに3時間ほど最寄りの警察署に拘束され、事情聴取が終わったころには日付が変わっていた。
警察署の前で、家を出る前にとりあえず持ち出してきた衣類を持って、途方に暮れた。
これからどうしよう。
今日はホテルかネットカフェに泊まるとして、問題は明日以降だ。
頭の整理が追いつかない。
真夜中を過ぎて夕飯を食べていなかったことを思い出したが、疲れすぎて空腹を感じなかった。
というより、今は胃に何も入れたくなかった。
ベッドで寝たかったのでホテルに泊まることにして、わたしはスマホで近くのホテルを検索し始めた。
「おはようございます、部長」
「おはよう。
ねえ白川さん、あなた体調大丈夫?
すごく顔色が悪いけど」
「はあ、実は昨日空き巣に入られまして……」
次の日の朝、会社が入っているビルのエレベーター前で出会った新海みどり部長に事の顛末を話す。
「それは大変だったわね。
しばらく家に帰れないんでしょ?
行く当てがないんだったら私の家に来たら?」
「そんな、部長にご迷惑をおかけするわけには……」
近くに住んでいる頼れそうな友達(当然彼氏も)がいない自分にとっては、部長の申出は喉から手が出るほどありがたくて、すぐにでも勢いよく頷きたい衝動にかられたが、いつ家に帰れたり引っ越せるかも分からない中では簡単にその善意を受け取ることができないことに気づき、固まってしまう。
「部下の面倒を見るのは上司の役目だから。
じゃあ決まりね」
「ご、ご、ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
わたしは俯いてどもりながらリュックの肩紐を強く握りしめた。
珍しく残業して帰宅したら、朝鍵を閉めたはずの家のドアが開いていた。
どきりとする。
たまたま鍵をかけ忘れただけでありますように、と祈りながらドアを開けた。
玄関のライトが自動で点灯する。
出しっぱなしになっていたもう一足のスニーカーが、蹴散らされたかのように乱れていた。
誰かがわたしの家に入ってる。
家の奥をおそるおそる見やると、玄関のライトが照らせる範囲の廊下に、大きな靴の土足痕が白く浮き上がっていた。
恐怖で吐きそうだった。
わたしは急いで家のドアを閉め、外に出た。
身体が震える。
それでもやるべきことをしなければと、震える手で通報した。
「あなたがかけてるこの番号ね、119番だから、110番にかけ直してね」
緊張のあまり緊急通報の番号を間違えた。
家の外で待っていると、パトカーで警察官がやってきた。
ご近所の皆さん、うるさくしてごめんなさい。
野次馬の視線が痛い。
犯人はベランダの窓ガラスを割って室内に侵入したらしい。
窓のクレッセント錠周辺だけ、器用にガラスが割られていた。
なくなっているものがないか、家の中を警察官と一緒に確認させられた。
もともとわたしはミニマリストで、物が極端に少ない。
貴重品がそもそも少なく、預金通帳もペーパーレスだし、印鑑は持ち歩いていたのでその点はよかった。
下着類も盗られていなかった。
でも。
「テーブルの上に置いてあったノートパソコンがありません……」
絶望的な気持ちでわたしは答えた。
その後すぐに始まった実況見分が終わると、パトカーに乗って移動させられ、さらに3時間ほど最寄りの警察署に拘束され、事情聴取が終わったころには日付が変わっていた。
警察署の前で、家を出る前にとりあえず持ち出してきた衣類を持って、途方に暮れた。
これからどうしよう。
今日はホテルかネットカフェに泊まるとして、問題は明日以降だ。
頭の整理が追いつかない。
真夜中を過ぎて夕飯を食べていなかったことを思い出したが、疲れすぎて空腹を感じなかった。
というより、今は胃に何も入れたくなかった。
ベッドで寝たかったのでホテルに泊まることにして、わたしはスマホで近くのホテルを検索し始めた。
「おはようございます、部長」
「おはよう。
ねえ白川さん、あなた体調大丈夫?
すごく顔色が悪いけど」
「はあ、実は昨日空き巣に入られまして……」
次の日の朝、会社が入っているビルのエレベーター前で出会った新海みどり部長に事の顛末を話す。
「それは大変だったわね。
しばらく家に帰れないんでしょ?
行く当てがないんだったら私の家に来たら?」
「そんな、部長にご迷惑をおかけするわけには……」
近くに住んでいる頼れそうな友達(当然彼氏も)がいない自分にとっては、部長の申出は喉から手が出るほどありがたくて、すぐにでも勢いよく頷きたい衝動にかられたが、いつ家に帰れたり引っ越せるかも分からない中では簡単にその善意を受け取ることができないことに気づき、固まってしまう。
「部下の面倒を見るのは上司の役目だから。
じゃあ決まりね」
「ご、ご、ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
わたしは俯いてどもりながらリュックの肩紐を強く握りしめた。