◇
信じられない、信じられない!
今目の前で繰り広げられている光景にわたしは口をあんぐりと開けている。そんな私を見た天海先輩が「ミミコ、あんた史上最強にブサイクな顔してるわよ」と嫌味ったらしく笑った。
く、悔しい……! ていうか、なんでこんなことに……!
遡れば数分前。突如わたしたちの前に現れたスーツ姿の天海先輩はプロデューサーに挨拶した後、私が片手に持っていたスマホを指さして『アンタ、ずっと繋がってたわよ、電話』と笑ったのだった。
その後スタスタと中村舞ちゃんの控え室にてテキパキ準備を整え、あっという間にヘアメイク開始。『いいんですか?! 他に仕事とか……』『アンタのそんな顔見たら助けるしかないでしょーが』。至って真面目にそんなことを言ってのける天海先輩に、わたしは今回甘えるしかないみたい。
「ねえ、三上さん凄いね、どこで知り合ったの?」
「えっ?!」
「天海さん! 有名だよ、舞台から雑誌からコスプレイヤーまで、幅広く最先端で活躍してるメイクアップアーティスト! こんなところで会えるなんて思ってもみなかった」
「え、ええ……」
コソッと若月さんが私に耳打ちする。さっきもらった天海先輩の名刺にも、しっかりとそう書かれていて。
まさかあの、いつも緑のジャージに厚底メガネの天海先輩が、業界でもかなり有名なフリーランスのメイクアップアーティストだなんて、誰が信じられるかっていう話!
宣言通り脅威のスピードで中村舞ちゃんのヘアメイクを仕上げていく天海先輩。その姿は家で推し活をしている姿とは似ても似つかない。
暗いストレートロングはまっすぐ腰まで。いつもお団子にしているから気づかなかったけど、艶々サラサラ。身長はスラリと高くて172センチ痩せ型。グレーのパンツスーツとベージュのパンプスが戦闘服だなんて聞いてない。メガネはやめてコンタクトだし、いつもノーメイクのくせに雪のように白い肌に映える薄ピンクのアイシャドウ。さすがの私もこれは綺麗だと言わざるを得ない。あの天海先輩に綺麗だなんて似ても似つかない言葉だ。ていうか、これのどこが天海先輩なんだっ。
「天海先輩……三橋くんのクリアファイル買えたんですか?」
「あたりまえだっつうの。朝5時から都内のコンビニ駆け回ったって言っただろーが。おかげでこっちは寝不足プラスで筋肉痛」
あ、やっぱり天海先輩だ。ニセモノじゃないらしい。
天海先輩がどうやって生計を立てているのかずっと疑問だったけれど、これなら確かに納得もいく。都心から少し離れるとはいえ、駅近マンション。家賃だって安くない。加えて天海先輩は三橋くんに毎月何十万と貢ぐ二次元ドルヲタ。一体そのお金がどこから出ているのか、答えはこんなところにあったとは。
フリーランスなら働く時間も自分で決められるだろうしね。朝も夜も家にいるのはそういうわけか。
色んなことに合点があってしまい、認めざるを得ないけれど─────天海先輩はどうやらかなりすごい人らしい。ただの三橋オタクだと思っていたのに、不覚。
信じられない、信じられない!
今目の前で繰り広げられている光景にわたしは口をあんぐりと開けている。そんな私を見た天海先輩が「ミミコ、あんた史上最強にブサイクな顔してるわよ」と嫌味ったらしく笑った。
く、悔しい……! ていうか、なんでこんなことに……!
遡れば数分前。突如わたしたちの前に現れたスーツ姿の天海先輩はプロデューサーに挨拶した後、私が片手に持っていたスマホを指さして『アンタ、ずっと繋がってたわよ、電話』と笑ったのだった。
その後スタスタと中村舞ちゃんの控え室にてテキパキ準備を整え、あっという間にヘアメイク開始。『いいんですか?! 他に仕事とか……』『アンタのそんな顔見たら助けるしかないでしょーが』。至って真面目にそんなことを言ってのける天海先輩に、わたしは今回甘えるしかないみたい。
「ねえ、三上さん凄いね、どこで知り合ったの?」
「えっ?!」
「天海さん! 有名だよ、舞台から雑誌からコスプレイヤーまで、幅広く最先端で活躍してるメイクアップアーティスト! こんなところで会えるなんて思ってもみなかった」
「え、ええ……」
コソッと若月さんが私に耳打ちする。さっきもらった天海先輩の名刺にも、しっかりとそう書かれていて。
まさかあの、いつも緑のジャージに厚底メガネの天海先輩が、業界でもかなり有名なフリーランスのメイクアップアーティストだなんて、誰が信じられるかっていう話!
宣言通り脅威のスピードで中村舞ちゃんのヘアメイクを仕上げていく天海先輩。その姿は家で推し活をしている姿とは似ても似つかない。
暗いストレートロングはまっすぐ腰まで。いつもお団子にしているから気づかなかったけど、艶々サラサラ。身長はスラリと高くて172センチ痩せ型。グレーのパンツスーツとベージュのパンプスが戦闘服だなんて聞いてない。メガネはやめてコンタクトだし、いつもノーメイクのくせに雪のように白い肌に映える薄ピンクのアイシャドウ。さすがの私もこれは綺麗だと言わざるを得ない。あの天海先輩に綺麗だなんて似ても似つかない言葉だ。ていうか、これのどこが天海先輩なんだっ。
「天海先輩……三橋くんのクリアファイル買えたんですか?」
「あたりまえだっつうの。朝5時から都内のコンビニ駆け回ったって言っただろーが。おかげでこっちは寝不足プラスで筋肉痛」
あ、やっぱり天海先輩だ。ニセモノじゃないらしい。
天海先輩がどうやって生計を立てているのかずっと疑問だったけれど、これなら確かに納得もいく。都心から少し離れるとはいえ、駅近マンション。家賃だって安くない。加えて天海先輩は三橋くんに毎月何十万と貢ぐ二次元ドルヲタ。一体そのお金がどこから出ているのか、答えはこんなところにあったとは。
フリーランスなら働く時間も自分で決められるだろうしね。朝も夜も家にいるのはそういうわけか。
色んなことに合点があってしまい、認めざるを得ないけれど─────天海先輩はどうやらかなりすごい人らしい。ただの三橋オタクだと思っていたのに、不覚。