番外編⑥【ソラに舞う楓】

虎のアヤカシ・氷空は番を探していた。
実家が大きな病院経営しているので跡継ぎでもあり、氷空もまた医者として毎日忙しくして中々、出会いがない。

氷空の父から「お前ももういい歳なんだから番候補くらい目星くらいあるんだろうな?」と聞かれ氷空は首を横に振った。
医者としてペーペーの新人ゆえ覚えることが沢山あって休日は引きこもったり、4つの島に行っても病院に寄るほどで出会いがない。

氷空には理玖と魁という2人の弟がいる。
魁はまだ番を探す年齢ではないが観光がてら理玖と一緒に4つの島に行ったりしている。
理玖は積極的に番探しをしているものの、虎のアヤカシは一度愛した相手を一生愛する一族なので、相手の霊力と相性を重視してなかなか見つからない。

ある日、氷空は西ノ島の病院で医療器具を届けに来ていた。
島は1カ月に一度、アヤカシの手配で街から船で物資が届くが手に入らないものもあり、そのひとつが医療器具や薬品と医療技術だ。

繁栄を望むアヤカシ側としても番が病気になったり、番でなくとも島の住人には繁栄してもらわないまと困るので時代遅れの島に医学を教えている。

病院内で入院患者の女の子が目に入る。
その女の子は医者や看護師から熱心に何か話しを聞いているようだ。

氷空はビクッと霊力?魂?が反応してしまった。
時折、笑う姿や真剣な顔…なんて美しいんだろうと一目惚れをしてしまった。

あとから看護師に聞けば、あの女の子は西ノ島のを纏める白神家の次女の白神楓さんだという。

「次女……」
掟ではアヤカシの番には長女しかできない。
島で繁栄してもらわないとアヤカシ側も困るからだ。
氷空は何も手がつかないほど落ち込んでいた。
それを知ってか知らずか父は「番が見つけるまで実家には帰ってくるな」と放り出した。

氷空は仕方なく西ノ島へやってきた。
「楓さん以外を番に…でも…他の人なんて…」と入院中の楓を影からこっそり見ていた。
諦めなければと思うも日に日に想いは募るばかり。

楓には双子の姉・紅葉がいるようで楓と一緒にいる紅葉をみた。
双子だけあって顔は似ているが、紅葉は元気で気が強く霊力も桁外れの強さ。楓はおっとりで紅葉を優しく見守るお姉さんのようだ。
大雑把な紅葉に笑いながら世話をする楓がまた愛おしい。

せめて友人になれないかと考えるも気の弱い氷空は声を掛けられずにいた。

紅葉が白虎の神子になったと西ノ島にいる他のアヤカシから聞く。あれだけ強い霊力があるのだから神である白虎様が放っておくわけないと。
紅葉狙いのアヤカシは悔しそうにしていたが。

氷空はふと繰り上がりで楓を番になれないかと考えていると学校前では楓と紅葉に白虎の風雅が話しをしており、氷空は隠れた。

風雅と紅葉がいなくなると楓は呟く。
「私も恋してみたいな」
氷空は思わず勇気を振り絞って声を掛けた。

その後、当主と風雅からの許可をもらい、楓の反応も悪くない。
紅葉からは敵意を向けられたが、アヤカシによくない感情があるので仕方ない。

お茶友達からということだが、氷空は声を掛けて良かったと歓喜した。




紅葉と風雅が天界へ行った日の夜。
氷空は楓の自室に来ていた。

「寂しくなりますね」
「うん。片割れがいなくなったみたいで不思議…双子とはいえ、違う人間なのにね」
眉をひそめる楓を抱きしめる。

「僕が!僕が楓さんの寂しさを埋めますから!」「ありがとう、氷空」
楓は氷空の背中に手をまわし、深いキスを交わした。