駅前のロータリーにある信号機の前で僕は足を止めた。
視界の縁にある桜の木は花びらが揺れている。
高校を卒業して何年かの春を迎えていた。
駅の周辺は再開発地区に認定されて、たくさんの店舗が撤退や移転を余儀なくされている。<地下の国>もそのうちのひとつだが、いくつかの店舗は風営法に違反したという噂があったらしい。
栄えていくのは期待できるけど、変わりゆくホームタウンが切なさを感じさせるのは気のせいだろうか。
そう思いながら、何気に信号機の向こうに目をやる。
そして、ある一点に釘付けになるのだった。
僕の視線がある人物に気づいたからだ。
道路の向かいを歩くひとりの女性。彼女の視点はまっすぐ先だけを見つめていた。
まさしく開花したばかりの桜のよう。
淡いピンク色のコートを羽織った凛々しい長い髪の姿は、爽やかな空気に包み込まれているような雰囲気がしていた。
高月 リツ花が目の前を歩いていた。
走って追いかけよう。
白いうさぎを追うアリスのような気分に僕はなった僕は急いで追いかけた。
ストーリーがはじまるわくわく、それが僕を待っているんだ。
振り返った彼女はあの日のまま、返事をしてくれた。
「朝倉くん......。おはようございます」
そう言う彼女の表情は昔と変わらない。十年後の君は、さらに綺麗になっていた。
穴に落ちたアリスは不思議な世界でたくさんの冒険をした。抱えきれないほどの経験を積んで、大きく成長したんだ。
目の前にいるリツ花もきっとそうだ。
だけども、もうそこにいる必要はないんだ。やさしく照らしている春の日差しは、まるで現実世界への帰り道みたいな気がする。
今日、この再会は。ふたりで歩くための必然なのかもしれない。
これから、わくわくが待っている。
「おはよう。そうだね......、おかえりなさい」
誰にも話したことのない秘密がある。
ある日、僕はバーの入り口にカスミソウで作った花束をそっと置いたことがあるんだ。
誰かが拾ってキャロルに渡してほしいってカードに書いて。
清らかな心をいつまでも持っていてほしいから。
いつまでも美しくいてほしいから。
君だけにささげる願いを誰かが届けてくれれば良いんだ思っていた。
そこにつけたカードに書いてもらった言葉が、"おかえりなさい"という一言。
その願いが、今ここに彼女を、リツ花を召喚してくれたみたい。
あの日のまま動かなくなってしまった振り子は、また動き出そうとしていた。
視界の縁にある桜の木は花びらが揺れている。
高校を卒業して何年かの春を迎えていた。
駅の周辺は再開発地区に認定されて、たくさんの店舗が撤退や移転を余儀なくされている。<地下の国>もそのうちのひとつだが、いくつかの店舗は風営法に違反したという噂があったらしい。
栄えていくのは期待できるけど、変わりゆくホームタウンが切なさを感じさせるのは気のせいだろうか。
そう思いながら、何気に信号機の向こうに目をやる。
そして、ある一点に釘付けになるのだった。
僕の視線がある人物に気づいたからだ。
道路の向かいを歩くひとりの女性。彼女の視点はまっすぐ先だけを見つめていた。
まさしく開花したばかりの桜のよう。
淡いピンク色のコートを羽織った凛々しい長い髪の姿は、爽やかな空気に包み込まれているような雰囲気がしていた。
高月 リツ花が目の前を歩いていた。
走って追いかけよう。
白いうさぎを追うアリスのような気分に僕はなった僕は急いで追いかけた。
ストーリーがはじまるわくわく、それが僕を待っているんだ。
振り返った彼女はあの日のまま、返事をしてくれた。
「朝倉くん......。おはようございます」
そう言う彼女の表情は昔と変わらない。十年後の君は、さらに綺麗になっていた。
穴に落ちたアリスは不思議な世界でたくさんの冒険をした。抱えきれないほどの経験を積んで、大きく成長したんだ。
目の前にいるリツ花もきっとそうだ。
だけども、もうそこにいる必要はないんだ。やさしく照らしている春の日差しは、まるで現実世界への帰り道みたいな気がする。
今日、この再会は。ふたりで歩くための必然なのかもしれない。
これから、わくわくが待っている。
「おはよう。そうだね......、おかえりなさい」
誰にも話したことのない秘密がある。
ある日、僕はバーの入り口にカスミソウで作った花束をそっと置いたことがあるんだ。
誰かが拾ってキャロルに渡してほしいってカードに書いて。
清らかな心をいつまでも持っていてほしいから。
いつまでも美しくいてほしいから。
君だけにささげる願いを誰かが届けてくれれば良いんだ思っていた。
そこにつけたカードに書いてもらった言葉が、"おかえりなさい"という一言。
その願いが、今ここに彼女を、リツ花を召喚してくれたみたい。
あの日のまま動かなくなってしまった振り子は、また動き出そうとしていた。