僕の青春はざらざらしている。
 弱小陸上部のマネージャーなんてやるもんじゃない。たいして予算もないからサポートは不足しがちだし、やる気がイマイチな部員からも「またあいつなんか言ってるよ」的な目で見られたりする。

 砂埃が立つグラウンドで、これまた一番埃っぽくなるゴール地点で部員たちのタイムを測る。
 木々の成長と同じくらいゆっくりと成長したり、時々しなかったりする部員たちの記録を、埃でざらざらになった紙に書き込んでいく。

 最後に走る部員の名前を惰性で呼ぼうとして、表情を引き締めた。

「次、名倉か」
「はい、行きます」

 名倉は今年入った一年の中で、一番見込みのある部員だ。でも、僕が食い入るように彼の走りを見つめているのはそれだけが理由じゃない。

 合図にあわせて名倉が走りだした。バネのような勢いでスタートし、しなやかな筋肉が盛り上がる。
 名倉は理想的なフォームで僕の目の前を駆け抜けた。ストップウォッチを押してタイムを確かめる。

「11.9秒……また速くなってる」
「おおっ!」

 名倉は踵を返してストップウォッチを覗きこんできた。息のかかる距離に過剰反応しないように気をつけながら、彼の目の前にストップウォッチを差し出す。

 名倉はまるでアイドルみたいなアーモンド型の瞳でまじまじと数字を見つめた後、僕に向かって手のひらを見せてくる。
 ハイタッチして応えてやると、高い背丈のくせして子犬みたいに笑った。

「へへっ、小竹先輩見ててください。俺、まだまだ速くなります!」

 立ち上がる砂埃が春の日差しに舞い踊っていて、まるで名倉に後光が差しているようだ。
 物理的な眩しさ以上にときめきが勝り、目を覆う。名倉はうろたえた。

「もしかして俺が走ったせいで、砂が入ったんですか?」
「気にするな。次走り込みだろ、行ってこい」

 名倉は僕の肩や背中をパタパタ叩いて砂埃を落とし、振り返りながら練習に戻っていった。
 触られた肩に手で触れながら深呼吸をする。早く乙女みたいな顔になってる僕の表情を、埃っぽさに辟易としている仏頂面に戻さないといけない。

 心のメモリに名倉の屈託のない笑顔をペーストし、名前をつけて保存しておいた。
 ……砂埃もたまには悪くない仕事をする。