◆ ◆ ◆
「龍生くん、最近、あの子来なくなっちゃったね、君のファン」
バイト中、グラスを拭いていると店長が話し掛けてきた。
その視線は店の角の席に向いていて、いまそこには誰も座っていない。
「ああ、色々あって。ファンじゃないっすけど」
表情を出さずに淡々と答える。
千早はもう俺のことは忘れたかもな、なんて。
「あの子がいるだけで君の威圧感、すごく減ってよかったんだけど」
そんなことを言って、店長はふっと笑った。
「はあ、そっすか? ――休憩入ります」
さらっと答えて、俺はグラスと布巾を置き、バックヤードに入った。
スマホを取り出して、千早とのチャットを見る。
『待ってるね♡』
あの日、千早が送ってきたメッセージで止まった会話。
その文字を見る度に心臓が痛くなる。
十日も過ぎて、未練がましいよな。
自分でやったくせに俺は忘れられない。
千早の身の安全のためにやったとはいえ、良いわけねぇよな、あんな別れ方。
「はぁ……」
頭を抱えたときだった。
突然、スマホが震えだした。
画面に表示されたのは『星野 千早』の文字。
めずらしく電話だ。
「千早?」
すぐに受電ボタンを押して出た。
『んだよ、こいつ、あいつのこと、王子様って登録してんのかよ、きっしょ!』
聞こえてきたのは千早の声ではなかった。
『お? 出たか? おーい、狂犬』
俺のことをそう呼ぶのは、この前の不良集団だけだ。
「なにしてんだよ?」
『りゅ、せ……ぅ、ぐすっ……』
不良が答える前に千早が泣きながら俺を呼んでいる声が聞こえた。
「おい、なんかされたのか? 千早!」
呼び掛けるが、もう千早の声は聞こえない。
代わりに出たのは不良集団のリーダーらしき男だった。
『米山 龍生、こいつ返してほしければ、いまから送る場所まで一人で来い。全員でぶっ飛ばしてやる』
そこで一方的に電話を切られた。
送られてきた地図に記されていたのは近くの高架下の場所だった。
――こんな寒い中、千早連れ去りやがって、あいつになにかあったらタダじゃおかねぇ!
エプロンを脱ぎ捨てて、俺は店の外に走り出した。
「龍生くん、最近、あの子来なくなっちゃったね、君のファン」
バイト中、グラスを拭いていると店長が話し掛けてきた。
その視線は店の角の席に向いていて、いまそこには誰も座っていない。
「ああ、色々あって。ファンじゃないっすけど」
表情を出さずに淡々と答える。
千早はもう俺のことは忘れたかもな、なんて。
「あの子がいるだけで君の威圧感、すごく減ってよかったんだけど」
そんなことを言って、店長はふっと笑った。
「はあ、そっすか? ――休憩入ります」
さらっと答えて、俺はグラスと布巾を置き、バックヤードに入った。
スマホを取り出して、千早とのチャットを見る。
『待ってるね♡』
あの日、千早が送ってきたメッセージで止まった会話。
その文字を見る度に心臓が痛くなる。
十日も過ぎて、未練がましいよな。
自分でやったくせに俺は忘れられない。
千早の身の安全のためにやったとはいえ、良いわけねぇよな、あんな別れ方。
「はぁ……」
頭を抱えたときだった。
突然、スマホが震えだした。
画面に表示されたのは『星野 千早』の文字。
めずらしく電話だ。
「千早?」
すぐに受電ボタンを押して出た。
『んだよ、こいつ、あいつのこと、王子様って登録してんのかよ、きっしょ!』
聞こえてきたのは千早の声ではなかった。
『お? 出たか? おーい、狂犬』
俺のことをそう呼ぶのは、この前の不良集団だけだ。
「なにしてんだよ?」
『りゅ、せ……ぅ、ぐすっ……』
不良が答える前に千早が泣きながら俺を呼んでいる声が聞こえた。
「おい、なんかされたのか? 千早!」
呼び掛けるが、もう千早の声は聞こえない。
代わりに出たのは不良集団のリーダーらしき男だった。
『米山 龍生、こいつ返してほしければ、いまから送る場所まで一人で来い。全員でぶっ飛ばしてやる』
そこで一方的に電話を切られた。
送られてきた地図に記されていたのは近くの高架下の場所だった。
――こんな寒い中、千早連れ去りやがって、あいつになにかあったらタダじゃおかねぇ!
エプロンを脱ぎ捨てて、俺は店の外に走り出した。