◆ ◆ ◆
久しぶりに虎太郎と帰りが一緒になった。
俺はこのあと、バイトに行くんだが、バイト前に千早と会う約束をしている。
「龍生、最近、千早と仲良いよな」
電車の中で虎太郎が急にそんなことを言ってきた。
千早と会うことをよく報告してるから、こういうことを言われるのだろうか。
「そうか?」
表情一つ変えず、俺は答えた。
「気付いてないのか? お前、千早のこと見つけるとちょっと優しい顔してるぞ? いつもは仏頂面なのに」
とても信じられない、みたいな顔が俺を見た。
「は?」
思いがけないことを言われて、疑問符が口から転がり出る。
俺が優しい顔ってなんだ?
「千早も俺たちといるときと全然違うし」
思い出すように虎太郎が言う。
たまに三人で会ったりすることがあるが、そういうときに気付くのか?
「違うってなんだ?」
千早の違いがまったく分からない。
「こう、キラキラふわふわが溢れてるっていうか、姫が出てるっていうか」
ジェスチャーで表現しようとしているのか、虎太郎の両手がしきりに動いているが、やっぱり分からなかった。
「なんだ、それ? 俺を親鳥かなんかだと思ってるだけだろ」
いまの俺と千早の関係は完全に親鳥と雛鳥だ。
産まれて最初に見たものについてきちまう刷り込みみたいなもんだろう。
「親鳥って……、まあ、俺が瑛二を取っちまったから千早も一人になることが増えたしな……」
ぼそぼそ虎太郎が言う瑛二っていうやつが誰だったか、頭の中で探って、ああ、虎太郎が付き合ってるやつか、と思った。
千早の口からもたまにその名前が出る。
小さい頃から同じ学校に通ってて、目について共感できる人間。
「じゃあ、俺はあいつの代わりってわけか」
溜息が出そうになった。
あいつの話をするときの千早はやけに嬉しそうな顔をする。
「いや、そういうことでもないと思うけどな」
「はっきりしねぇな」
答えがあまりに曖昧で俺がそう言うと
「まあ、俺は千早じゃないからな。――じゃあな」
虎太郎は笑って先に電車から降りていった。
まあ、その通りなんだが、真実が気になった。
久しぶりに虎太郎と帰りが一緒になった。
俺はこのあと、バイトに行くんだが、バイト前に千早と会う約束をしている。
「龍生、最近、千早と仲良いよな」
電車の中で虎太郎が急にそんなことを言ってきた。
千早と会うことをよく報告してるから、こういうことを言われるのだろうか。
「そうか?」
表情一つ変えず、俺は答えた。
「気付いてないのか? お前、千早のこと見つけるとちょっと優しい顔してるぞ? いつもは仏頂面なのに」
とても信じられない、みたいな顔が俺を見た。
「は?」
思いがけないことを言われて、疑問符が口から転がり出る。
俺が優しい顔ってなんだ?
「千早も俺たちといるときと全然違うし」
思い出すように虎太郎が言う。
たまに三人で会ったりすることがあるが、そういうときに気付くのか?
「違うってなんだ?」
千早の違いがまったく分からない。
「こう、キラキラふわふわが溢れてるっていうか、姫が出てるっていうか」
ジェスチャーで表現しようとしているのか、虎太郎の両手がしきりに動いているが、やっぱり分からなかった。
「なんだ、それ? 俺を親鳥かなんかだと思ってるだけだろ」
いまの俺と千早の関係は完全に親鳥と雛鳥だ。
産まれて最初に見たものについてきちまう刷り込みみたいなもんだろう。
「親鳥って……、まあ、俺が瑛二を取っちまったから千早も一人になることが増えたしな……」
ぼそぼそ虎太郎が言う瑛二っていうやつが誰だったか、頭の中で探って、ああ、虎太郎が付き合ってるやつか、と思った。
千早の口からもたまにその名前が出る。
小さい頃から同じ学校に通ってて、目について共感できる人間。
「じゃあ、俺はあいつの代わりってわけか」
溜息が出そうになった。
あいつの話をするときの千早はやけに嬉しそうな顔をする。
「いや、そういうことでもないと思うけどな」
「はっきりしねぇな」
答えがあまりに曖昧で俺がそう言うと
「まあ、俺は千早じゃないからな。――じゃあな」
虎太郎は笑って先に電車から降りていった。
まあ、その通りなんだが、真実が気になった。