「また、あなたはケンカして……」
「どうしてお前はいつもそうなんだ?」
「少しはお兄ちゃんを見習ったら?」
「いいや、お前には何も期待してない」

 ――俺だって、好き好んでケンカなんかしてねぇよ……。

 医者家系の家に生まれ、勉強もそれなりに出来る。
 ただ、見た目で勘違いされることが多く、優秀な兄と違ってケンカばかりしている俺は家族から疎まれていた。
 この家に俺の居場所はない。
そう気付いたときから、高校を卒業したら家を出ようと考えて、バイトを増やすことにした。
 高校では運良く気の合う仲間が見つかり、そこに少し救われている。

「わっ!」
「ちっ、どこ見て歩いてんだ!」

 学校からの帰りだった。
 自宅のある最寄り駅前で、自転車に乗った感じの悪い年配の男が小柄な男子高校生と接触事故を起こし、逃走するのを目撃した。

「……どうしよう、……どうしよう」

 接触されたほうの男子高校生は、その場にへたり込んで、パニックになっているようだった。
 よく見ると、見覚えがある。
 虎太郎が呼んだやつと一緒に文化祭に来ていた千早というやつだ。

「おい、大丈夫か?」

 近くにしゃがんで俺が声を掛けると、びくっとその小さな身体が跳ねた。

「……っ、誰……?」

 怯えたように身体を縮こませながら、千早が涙目で言う。

 ――そうか、見えないんだよな。

「千早、だったか? 文化祭来てただろ? 虎太郎のダチだ」

 これ以上驚かせないように、俺はお前を知ってるぞ、という意味で相手の名前をまず口にして、虎太郎の知り合いであることも伝えた。

「あ、えっと、りゅ、りゅうせい……?」

 涙声で俺の名前を導き出す千早。
 そうか、覚えてたか……。

「そうだ、龍生だ。大丈夫か?」
「た、たすけて……! 王子様……!」

 俺の正体が分かった瞬間、千早はガバッと俺に抱き付いてきた。

 ――王子様? なんで俺が?

「よく分かんねぇんだが、どうしたらいい?」

 戸惑いながら、一応、尋ねる。
 助けが必要なことだけは分かった。

「白杖折れて、もう歩けない。抱っこして」

 そう言われて、地面に転がる白い杖を見てみると、先端のほうがパッキリと折れていた。
 なるほど、これが折れると動けなくなるのか、と思うが、歩けないってなんだ?

「怪我したのか?」
「ううん。でも、抱っこして」

 首を振る千早に視線を向けると少し足が震えているように見えた。
 ああ、パニクってたせいで足に力が入らないのか。