服だけ着替えて、そのままの足で、俺と瑛二は瑛二の母親の家まで来た。
 瑛二がどうしても見るだけでいいって言うから、インターホンを押すことなく、門のこちらから中を覗く怪しい高校生たちになっている。

「なにか見える? 全部隠さずに教えて」

 白杖を持って、門の前に立つ瑛二は多分、背が高くてバレるときはバレると思った。

「ん、窓から、お前の母親が見える。それと、小さい女の子がいて……」

 瑛二はどう思ったか分からないが、もう瑛二の母親に新しい家族が出来ていることに俺は少し衝撃を受けた。
 だって、瑛二の母親と小さい女の子は楽しそうにクレヨンでなにかを描いてる。
 女の子は目が見えないなんてことはなさそうだった。

「笑ってる? 母さんとその子、幸せそう?」

 怒りとか悲しさとかぜんぜんなく、瑛二が尋ねてくる。

「そうだな、俺にはそう見える」

 そう言った瞬間、俺は、しまった……と思った。

 門から中を覗いていたら、窓越しに瑛二の母親と目が合ってしまったのだ。

 ひとまず、俺がぺこりと頭を下げると、向こうもぺこりと頭を下げてくる。

 もう何年も会っていないらしいし、向こうが瑛二に気付いたかどうか分からないが、いまの瑛二のことも見えただろう。

「そっか、じゃあ、もう行こう。ありがとう、虎太郎」

 向こうがこちらを見たことに気付かない瑛二はそう言って、俺の手を引いた。
 俺も自分からは見られたことを言わなかった。

 ここから瑛二の母親が外に出てくるかは、あの人の気持ち次第だからだ。

 ――出て来ないか……。

 心のどこかで出て来てくれることを望んでいる自分がいた。
 でも、瑛二の母親は出て来なくて、瑛二と手を繋いで歩き始めてだいぶ来た。

 ふと、突然、瑛二の足が止まる。

「どうした?」

 俺も足を止めて、尋ねた。