まあ、質問があれだったかもだけど、いざ聞いてみるとやっぱこうやって気まずくなるじゃん。

「ほら、ほらな?」

 場の空気をなんとかしようと、俺の腕を掴んでいる瑛二の手を軽く叩いたときだった。

「好き」
「は?」

 ぼそりと聞こえた言葉に思わず固まった。

「虎太郎、俺、君が好き」

 長い睫が持ち上がって、吸い込まれそうな瞳が俺のことを見ていた。
 合うはずのない視線にどきりとする。
 
 ――瑛二が、俺のことを、好き?

「え、そ、それって、そういう好き?」

 戸惑いから笑いそうになって、でも、押し殺して、尋ねる。
 ただ人として好きなだけかもしれねぇじゃん、って思ったけど

「そういう、好き」

 って返されて

「なんで?」

 って言葉が自然と口から出た。

「おかしなことを言うみたいだけど、一目惚れしたんだ」

 瑛二がそんなことを言って、ふっと優しく笑う。

「それは……」

 たしかに、おかしなことを言ってる。
 どういう意味かよく分かんねぇけど、取り敢えず答えとしては……

「えっと、ごめん」

 絞り出すように俺は瑛二にそう言った。

「そうだよね、いいんだ、別に」

 瑛二は振られたってのに、やけにあっさりとしていた。

 え、なんで、俺、いま、ほっとした顔された?
 もしかして、揶揄われたのか?

「駅の音、するね。送ってくれてありがとう」

 俺がなにかを質問する前に、駅の音に気付いた瑛二は俺の腕をそっと離して、去って行ってしまった。

「歩くの速ぇし、よく分かんねぇ……」

 辺りにはしばらくカツカツという白杖の音が響いていた。