「……虎太郎?」
微かにこぼれるような声が聞こえた。
「そうだよ」
「俺、頭打ったのかな? 幽霊じゃないよね?」
淡々と答えるとふわふわとした返事が返ってきた。
「本物だよ、俺の声聞こえるだろ?」
「……うん、聞こえる。でも、信じられない」
いつまでそんなふうに情けない顔でいるつもりなのか。
俺は瑛二に近付いて、頭を掴んで自分の胸に瑛二の右耳を押し付けた。
「ほんとだ、触れるし、心臓の音する……」
そんなふうに言う瑛二の左耳にクラゲのピアスが見えた。
「ピアス」
「うん、コンセプトに合ってたから、そのままでいいって」
つぶやくように言った俺の言葉に瑛二はふっと笑って答えた。
ああ、バカだなと思う。
こんなときに俺も同じもの着けてきちまうなんて。
瑛二のほうが捨てていればよかったのに。
いいや、こいつはそういうやつだった。
「え? なにしてるの?」
俺が正面から瑛二の膝の上に座ると、瑛二は驚いたような顔をした。
「お前が逃げられないようにしてる」
イラっとした口調で、そう告げて、俺は瑛二の額に自分の額をぶつけた。
「痛っ!」
「これでも優しいほうだろうが……! 本当は鼻血出るまで顔面を殴ってやりたいとこだ!」
一瞬、瑛二はポカンという顔をして、それから、またしんみりした顔になった。
「虎太郎も見たんでしょ? どんなに練習しても俺はみんなが出来ることで失敗する」
「そんなの誰だって失敗するときは失敗するだろ? 完璧なやつなんていねぇよ!」
自分だけかっこいいままでいたいなんて言わせないからな。
「でも……」
「お前の中の俺はそんなに無責任でひどいやつなのかよ!」
瑛二の言葉を遮って俺は言葉の弾丸を撃ちまくった。
「どうして、自分の口からぜんぶ話してくれなかったんだ? 話してくれれば、二人で解決できることだってあっただろ? お前はいつもいつも大事なことを言わなすぎるんだよ! それで自分も他人も傷付ける!」
母親からのトラウマがあったって、言わなきゃそんなの分かるわけねぇだろ。
ずっと一人で抱えて、どうして分かち合おうとしない?
大事だからってか?
俺からの好意が分からなかったからか?
こんなに俺のことを振り回しておいて、いまさら大事もなにもないだろ!
「お前が諦めることで、俺まで諦めなきゃいけないって分かんねぇか? ……なんで俺が諦めなきゃいけねぇんだよ!」
ムカついて、俺はまた瑛二の胸ぐらを掴んだ。
借り物とか知らねぇ。