どよめく会場。

「瑛二!」

 俺は下に落ちた瑛二のことが心配になって、席を立ち、前に出ようとした。

「さがってください!」

 だが、係の人間に止められ、姿を見ることさえ叶わない。
 なにもできなくて、どのくらい時間が経っただろう。
 もう帰ろうと思った。
 しかし、視線の先にこちらを見ている人物がいた。

「明莉さん……」

 思わず、名前を口に出すと、明莉さんは俺のほうに歩いてきて

「こっち来て、裏手に案内するから」

 と俺の腕を引っ張った。
 そして、セキュリティの人にスタッフパスを見せて、ステージの裏側に入っていく。

「私、瑛二くんにまた頼ってもらえて嬉しいとか別に思ってないから。様子がへんだったから、君が止めに来るまでの繋ぎをずっとしてただけ」

 色んな人が通っていってざわつく、白くて長い廊下を歩いているときに明莉さんは不機嫌そうに言った。

「さあ、入って。瑛二くん、奇跡的に怪我なかったから」

 控え室のような部屋の前まで来て、明莉さんが捨てるように言い放つ。
 もう彼女の中では瑛二への気持ちは吹っ切れているのだと感じた。

「それじゃあ。こっちはなんとかしとくから気にしないで」

 颯爽と明莉さんが俺に背を向ける。

「明莉さん」

 俺は彼女を呼び止めた。
 これだけは言わないと。

「ありがとうございます」
「ほんと迷惑」

 ふっと笑って、明莉さんは去っていった。

 そうだよな、ほんと、どんだけ迷惑掛けてんだか。

 俺はノックをして部屋に入った。
 瑛二は少し落ち込んだ様子で、ぼーっと壁際にある椅子に座っていた。
 心がここにないことが分かる。
 ノックもしたし、人が入ってくれば扉の音と気配、足音で分かるはずなのに、瑛二は反応しなかった。

「瑛二」

 覚悟を決めて、声を掛ける。