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『もし、気が変わったら、明後日ここに来て。ファッションショーに瑛二が出るから』

 家に帰って千早から送られてきたのは、そんなメッセージとチラシの写真のようなものだった。

そこには日時と場所が書いてある。

 例の香水のブランドと別のファッションブランドがコラボしたショーのようだ。

「行かねぇっての」

 スマホをベッドに投げて、机の引き出しを開ける。
 そこには永眠したクラゲのピアスがいまも静かに眠っていた。
 その下には瑛二からもらった点字の紙。

 ――ほんと、あいつ、バカだよ……。

 ピアスと紙を睨み付けながら心の中で毒を吐く。

 俺は行かない。行かないんだからな。
 だって、俺が行ったところで瑛二の気持ちが変わるはずがない。

 そう思っていたのに

「ファッションショー一般入場、こちらでーす」

 見るだけ、という気持ちで来てしまった。

 俺だって、自分はバカだなと思う。
 終わったなら終わったままにすればいいのに。
 自分の傷を自分で抉ることをするなんて信じられない。

「今回のテーマは香水をイメージしたファッションになります」

 そうデザイナーが説明を行い、低音の響く音楽が流れ始める。

 俺にはファッションなんてぜんぜん分かんねぇけど、なんか女も男もヒラヒラしたレースのようなものがついたズボンを履いていた。

 ある程度、モデルが出てきて、終わりのほうに出てきたのが瑛二だった。

 銀色の生地の宇宙のようでクラゲのような服を着ていて歩数でランウェイの長さを覚えているのか、手に白杖を持っていない。

 死ぬほど努力して、見てなくても颯爽と真っ直ぐ歩く瑛二の姿。

 止まるべきところはすぐそこだ。

 あ……、と思った。

 そこで止まると思ったのに、瑛二はもう一歩踏み出してしまったのだ。