「……久しぶりだね、虎太郎くん」

 瑛二のお父さんだった。

「あ、来た?」

 お父さんの声に反応して隣に座った千早がスマホから顔を上げる。

「久しぶり、まあ、座って。パパさんがご馳走してくれるから、なんでも頼んで」

 二ヶ月ぶりに会った千早はなにも変わっていなかった。
 明るくて、自分一番で、まぶしい。

 俺はそんな千早に言われるままに二人の正面の席に座った。

「ご注文お決まりですか?」
「じゃあ、オレンジジュースで」

 席にやってきた店員に適当に飲み物を頼む。
 とても、なにかを食べられるような気分じゃなかった。

「なんで、俺はここに呼び出されたんすか?」

 少しふてくされたように言ってしまうのは、ほんとはもう放っておいてほしかったからだ。
 なにも思い出さずに忘れたい。
 それほど、俺の中であいつの存在は大きくなってたんだ。
 目の前から消えて、それに気付いた。

「瑛二となにがあったのか聞きたくて」
「瑛二に聞けばいいじゃないですか」

 少し食い気味でそう言ってしまう。
 瑛二のお父さんはさすが大人だった。

「教えてくれないんだ」

 冷静に答え、続ける。

「父親が口を挟むことじゃないと思ったんだけど、最近の瑛二はあまりにひどくて。だから、教えてほしい」

 ――ひどい?

 どういう状態なのか分からなくて、俺は口を閉ざした。
 俺だって、結構ひどい状態だっての。

「ケンカしたとか?」

 千早が助け船のつもりか、急にそう尋ねてきた。

「そうじゃない。――はぁ……。瑛二が急にもう会えないって、連絡できないって、自分のこと好きになるなって……」

 あの日のことを思い出すと、また心臓がズキズキしてくる。
 忘れたかった。

「そっか……、君は瑛二の宝物になってしまったんだね」
「は?」

 態度は悪いかもしれないが、俺がそう言葉をこぼすと、お父さんは「明莉ちゃんですら、ならなかったのに」とつぶやいた。