瑛二と連絡を絶ってから早二ヶ月が経った。
 失恋の痛みというやつはこんなにも尾を引くものなのか、と思うほどまだ俺の中に残っているが、愉快な仲間たちのおかげで元気ではある。

 クラゲのピアスは外して、部屋の机の引き出しで永眠中。
 捨てようと思ったが、どうしてもそれができなかった。
 だから、このクラゲは死んだんだ、と思ってそこに入れた。

「じゃあねー、コター」
「ばいばーい」

 美香、日和、龍生とは降りる駅が違くて、みんなより先に俺が降りる。
 俺が降りて、「龍生、今日またバイト?」という呆れるような美香の声と共に扉が閉まった。

 ――バイトか、もうそろそろクリスマスだし、俺も単発バイトでもしようかな。

 そう思っていたときだ。

「……っ」

 急に久しぶりに電話が鳴ってビックリする。
 表示されたのは知らない番号だった。

 番号を変えた瑛二では? と心のどこかで期待する自分がいて、気付いたら、俺は受電ボタンをタップしていた。

『もしもし? 虎太郎?』

 その声は瑛二ではなかったが、聞き慣れた声だった。

「千早? どうして番号知ってんだ?」

 不思議に思う。
 瑛二が教えるなっていうから、結局繋がってなかったはずなのに。

『文化祭のときに美香ちゃんと日和ちゃんに教えてもらった』
「あー、そういうこと。……で、電話なんてどうした?」

 いつのまに、そんなに仲良くなったのか、と思うが、いまはそれよりも気になることがある。

『そろそろ帰ってくる頃かなと思って』
「ん? どういうことだよ?」

 意味深なことを言われて、眉間に皺が寄る。
 なんか嫌な予感がした。

『虎太郎のところの最寄り駅の喫茶店ルノーにいるから、来て』
「は?」

 もう最寄りの駅には着いていて、視線をルノーのほうに向けると目に入ってきたのは千早の姿ではなかった。

「瑛二……?」

 本物じゃない。
 なにかの香水ブランドの大きな看板だった。
 そのモデルが瑛二だったのだ。

 喫茶店ルノーの横の建物、その壁に貼られた巨大なポスターに視線を奪われながらも電話を切り、俺は店の扉を開けた。

「あ、待ち合わせです」

 そう店員に言って、中に進むと、すぐ見知った顔と目が合った。