中庭に移動して、端のほうで瑛二と向き合う。
 ステージのほうでは軽音部がライブの準備をしていた。

「瑛二、口開けろ」
「ん……んぐっ、なに入れたの?」

 開いた瞬間に、肉串を横向きにして少し雑に瑛二の口に入れると、瑛二は戸惑った顔をした。
 あまりに唐突だったからだろう。
 でも、知らね。

「肉、美味いか?」
「美味しいけど、ねえ、絶対怒ってるよね?」

 もぐもぐする口元を抑えながら、瑛二が尋ねてくる。
 眉間に皺が寄ってるのは俺も一緒だ。

「なに言ってんだよ、なんで俺が」
「だって、声が怒ってる」

 どうして分からないのか、と思う。
 お前はいつだって、俺のこと「好き好き」言うくせに。
 俺には女子に好かれたら「ダメ」だって言うくせに。

「それはさ、瑛二が知らない女子にばっかりかまけるからだろ?」
「大丈夫だよ、俺と虎太郎はちゃんとお友達だし」

 なんなんだよ、その答え。
 自分は好きとか言って、いまさらお友達宣言って……。
 なんで、こんなむしゃくしゃすんだよ?

「ふざけんなよ……、俺のほうが、瑛二のこと知ってるのに! 俺のほうが」

 勢いでなんか言いたくない。
でも……

「瑛二のこと好――」
「ダメ!」

 突き抜けるような声だった。
 瑛二の声に近くにいた人が振り向くくらいだ。

「え?」

 思わず、聞き返す。

「虎太郎は俺のこと好きになっちゃいけない……」
「どういうことだよ?」

 冷たくて暗い声に戸惑った。
 表情も硬くて、あの海のときを思い出す。

「……いつも虎太郎は俺の好きを否定してくれる、だから、俺は虎太郎を好きでいられたんだ」
「なあ、なに言って――」
「ごめん、もう会えない。連絡もできない……」

 そう俺に伝える瑛二は、いまにも泣き出しそうで苦しそうな顔だった。
 もうなにも言えない。

「……ごめんね、虎太郎、ごめん」

 そのなんでもすぐに謝る癖が嫌いだったのに、最後に聞くのがそれなのかよ?

「すみません、校門まで案内してもらえますか?」
「……? あ、いいですよ」

 近くにいた俺も知らない男子生徒に声を掛けて、瑛二が歩いていってしまう。

 あまりにも瑛二が悲しそうな顔をしていたから、俺はあとも追えなかった。
 どうして、あんなに苦しそうで、つらそうな顔をしていたんだろうか。