◆ ◆ ◆
呼んではないが、当日、千早も一緒に瑛二と仁坂高の文化祭にやってきた。
「美香です。千早くん、だよね?」
俺が瑛二と千早を連れてクラスに入ると、美香がさっそく千早に話し掛けにきた。
「可愛い~、睫長くてお目々大きい。メイクしたい。していい? あ、私、日和」
千早のことは二人に話してあったから、日和もバタバタとこちらに寄ってくる。
「え? してくれるの?」
ぱあっと表情を輝かせた千早は満更でもなさそうだ。
メイクも嫌じゃねぇんかよ、千早ってすげぇな。
「うん、一緒に控え教室行こう」
「そのまま一緒にうちらと回ろうよ」
千早を両側から挟んで、美香と日和が陽キャオーラを爆発させている。
本来、部外者は控え教室には入れないが、まあ、メイクするくらいなら許されるだろう。
「龍生も一緒に行くんだからね?」
そのままクラスから出て行くと思えば、教室の扉のところで振り向き、美香が龍生に言った。
窓際に怠そうに立っていた龍生は、めんどうくせ、みたいな顔をこちらに向け、それでも三人についてクラスを出て行った。
直前、美香と日和と視線が合ったんだが、あからさまに『がんばれ!』という俺にエールを送るような目だった。
「騒がしい、よな?」
四人が出て行ったあと、きっと騒がしすぎて何が起こったかよく分からないだろう、と思って、俺はずっと黙っていた瑛二に苦笑いを向けた。
「ううん、千早が楽しそうでよかったよ。千早、俺しか友達いないから」
「そうか」
ほっとしたような声で言われて、こっちもほっとする。
まあ、あのお姫様体質なら、人の好き嫌い、好かれ嫌われ、左右されるだろうな。
「虎太郎のクラスはなにやってるの?」
気になったのか、音を探るように首を動かして、瑛二が尋ねてくる。
廊下に人が溢れていて、音を聞き分けるのは大変だろう。
「俺んとこはクラスのやつらが出し物やるより回りたいって言ったから、放置するだけでいい展示になったんだよ。写真を千切って、貼って、絵を作るやつ」
瑛二の手を引いて、俺は大きな絵の前に立った。
みんなで持ち寄った写真で作ったのが担任の似顔絵とか笑えるだろ?
「へえ、それなら俺は見られないのかな」
「触ってみたらいいじゃん」
残念そうに言うから、俺は瑛二の手を持ち上げた。
「それ大丈夫? 怒られたりしない?」
「悪さするわけじゃねぇんだから、大丈夫だろ。俺もいるし」
そもそも、これに熱意込めて取り組んだやつなんていねぇし、完成してよかったね、くらいで。
一人じゃ気が引けると思って、瑛二の手を絵の上に置いた俺は一緒に絵に触れた。
案の定、誰も気にしてるやつなんていない。
「ガタガタしてる」
「担任の顔なんだけど、似てねぇんだ、これが」
「ははっ、そうなの?」
俺が笑うと瑛二も笑う。
なんか、こういうのいいな、と思った。
「瑛二、ちゃんとスタッド着けたまんまにしてるんだな。穴が安定するまでもう少しか」
俺の視線の先、瑛二の左の耳たぶには初期の透明な石のついたスタッドが刺さっている。
あと一週間ほどはそのままだろう。
「ずっと楽しみにしてるんだけどね。虎太郎は今日もクラゲ着けてるの?」
「おう、着けてるよ」
俺が答えると、瑛二の手が俺の肩に触れた。
その手が俺の耳を目指していることが分かって
「……っと、なんか食べに行こうぜ」
誤魔化して、手を繋いだ。
いま触られたら、ここで好きと言ってしまいそうだった。
そんな勢いで言うものじゃないだろ、普通に。
「ふふっ」
瑛二は「なんで?」とか言うわけでもなく、嬉しそうに笑って、俺と校舎を歩いた。
「あの人、かっこいい」
「うちの学校の人じゃないよね?」
どこを歩いていても、瑛二は目立つ。
背が高くて、透明感があって、すべてが整っている。
みんな、瑛二が白杖を持っていることに気付かないくらいに、まず先に容姿に目がいくようだ。
隣を歩く平凡顔ヤンキーの俺もみんなの視界には入らない。
「あの、どこの高校の方ですか?」
同じ高校生だから付き合えるかもと思うのか、普通に声を掛けてくる。
一人だったり、二人だったり、団体だったり……。
大抵のやつらは瑛二の目に気付いて、静かになったり、謝罪して去っていくが、そういう人間ばかりではない。
「あ、目……、私、案内しましょうか? いろいろお手伝いしますし」
ずうずうしく、そう提案してきたりするやつもいた。
「こいつにそういうのいらないから」
何度、その言葉を言ったか分からない。
瑛二も優しい顔してねぇで、さっさと断ればいいのに、ちゃんと話聞いてやってバカみたいだ。
「虎太郎、怒ってる?」
俺が3年の屋台で肉串を買ってると、瑛二が隣から聞いてきた。
「別に気にしてない」
そう答えながら、先輩にお金を払って、瑛二の手を引く。
嘘だ。ちょっと怒ってる。
俺がいるのに、瑛二がよそ見ばかりするから。
これは皮肉だ、バカ。
呼んではないが、当日、千早も一緒に瑛二と仁坂高の文化祭にやってきた。
「美香です。千早くん、だよね?」
俺が瑛二と千早を連れてクラスに入ると、美香がさっそく千早に話し掛けにきた。
「可愛い~、睫長くてお目々大きい。メイクしたい。していい? あ、私、日和」
千早のことは二人に話してあったから、日和もバタバタとこちらに寄ってくる。
「え? してくれるの?」
ぱあっと表情を輝かせた千早は満更でもなさそうだ。
メイクも嫌じゃねぇんかよ、千早ってすげぇな。
「うん、一緒に控え教室行こう」
「そのまま一緒にうちらと回ろうよ」
千早を両側から挟んで、美香と日和が陽キャオーラを爆発させている。
本来、部外者は控え教室には入れないが、まあ、メイクするくらいなら許されるだろう。
「龍生も一緒に行くんだからね?」
そのままクラスから出て行くと思えば、教室の扉のところで振り向き、美香が龍生に言った。
窓際に怠そうに立っていた龍生は、めんどうくせ、みたいな顔をこちらに向け、それでも三人についてクラスを出て行った。
直前、美香と日和と視線が合ったんだが、あからさまに『がんばれ!』という俺にエールを送るような目だった。
「騒がしい、よな?」
四人が出て行ったあと、きっと騒がしすぎて何が起こったかよく分からないだろう、と思って、俺はずっと黙っていた瑛二に苦笑いを向けた。
「ううん、千早が楽しそうでよかったよ。千早、俺しか友達いないから」
「そうか」
ほっとしたような声で言われて、こっちもほっとする。
まあ、あのお姫様体質なら、人の好き嫌い、好かれ嫌われ、左右されるだろうな。
「虎太郎のクラスはなにやってるの?」
気になったのか、音を探るように首を動かして、瑛二が尋ねてくる。
廊下に人が溢れていて、音を聞き分けるのは大変だろう。
「俺んとこはクラスのやつらが出し物やるより回りたいって言ったから、放置するだけでいい展示になったんだよ。写真を千切って、貼って、絵を作るやつ」
瑛二の手を引いて、俺は大きな絵の前に立った。
みんなで持ち寄った写真で作ったのが担任の似顔絵とか笑えるだろ?
「へえ、それなら俺は見られないのかな」
「触ってみたらいいじゃん」
残念そうに言うから、俺は瑛二の手を持ち上げた。
「それ大丈夫? 怒られたりしない?」
「悪さするわけじゃねぇんだから、大丈夫だろ。俺もいるし」
そもそも、これに熱意込めて取り組んだやつなんていねぇし、完成してよかったね、くらいで。
一人じゃ気が引けると思って、瑛二の手を絵の上に置いた俺は一緒に絵に触れた。
案の定、誰も気にしてるやつなんていない。
「ガタガタしてる」
「担任の顔なんだけど、似てねぇんだ、これが」
「ははっ、そうなの?」
俺が笑うと瑛二も笑う。
なんか、こういうのいいな、と思った。
「瑛二、ちゃんとスタッド着けたまんまにしてるんだな。穴が安定するまでもう少しか」
俺の視線の先、瑛二の左の耳たぶには初期の透明な石のついたスタッドが刺さっている。
あと一週間ほどはそのままだろう。
「ずっと楽しみにしてるんだけどね。虎太郎は今日もクラゲ着けてるの?」
「おう、着けてるよ」
俺が答えると、瑛二の手が俺の肩に触れた。
その手が俺の耳を目指していることが分かって
「……っと、なんか食べに行こうぜ」
誤魔化して、手を繋いだ。
いま触られたら、ここで好きと言ってしまいそうだった。
そんな勢いで言うものじゃないだろ、普通に。
「ふふっ」
瑛二は「なんで?」とか言うわけでもなく、嬉しそうに笑って、俺と校舎を歩いた。
「あの人、かっこいい」
「うちの学校の人じゃないよね?」
どこを歩いていても、瑛二は目立つ。
背が高くて、透明感があって、すべてが整っている。
みんな、瑛二が白杖を持っていることに気付かないくらいに、まず先に容姿に目がいくようだ。
隣を歩く平凡顔ヤンキーの俺もみんなの視界には入らない。
「あの、どこの高校の方ですか?」
同じ高校生だから付き合えるかもと思うのか、普通に声を掛けてくる。
一人だったり、二人だったり、団体だったり……。
大抵のやつらは瑛二の目に気付いて、静かになったり、謝罪して去っていくが、そういう人間ばかりではない。
「あ、目……、私、案内しましょうか? いろいろお手伝いしますし」
ずうずうしく、そう提案してきたりするやつもいた。
「こいつにそういうのいらないから」
何度、その言葉を言ったか分からない。
瑛二も優しい顔してねぇで、さっさと断ればいいのに、ちゃんと話聞いてやってバカみたいだ。
「虎太郎、怒ってる?」
俺が3年の屋台で肉串を買ってると、瑛二が隣から聞いてきた。
「別に気にしてない」
そう答えながら、先輩にお金を払って、瑛二の手を引く。
嘘だ。ちょっと怒ってる。
俺がいるのに、瑛二がよそ見ばかりするから。
これは皮肉だ、バカ。