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 夕方になる前に瑛二と俺は家を出た。
 俺の母親は夕飯を食べていってほしそうにしてたけど、暗くなると瑛二が帰りにくくなると思った。
 服にはちゃんとローラーもかけてやって、瑛二はご機嫌そうだった。

「虎太郎、今日はありがとう」

 カツカツと白杖が地面を打つ音が聞こえて、それにかぶるように瑛二の声が聞こえた。

「こちらこそ、ガレットごちそうさま」

 言葉に返すように横をちょっと見上げながら言う。
 貸した腕は優しくもしっかり掴まれていて、これから夏になったらどうすんのかな、とか考えたりした。
 いまは5月だけど、きっと、もう少ししたら暑くなる。

「ちゃんとお礼になったかな?」
「なった、なった」

 心配そうな瑛二の言葉に考え事をしながらも軽く返事を返す。

「虎太郎はさ、あまり俺の目について質問してこないよね」

 それは突然の瑛二からの疑問だった。

「興味ねぇし」

 前を向いて、さらっと答えて、また失敗したと思った。

「あ、いや、なんか言い方悪かったかも。いまの嘘。いろいろ聞いてくんの、なんか小さなガキみたいじゃん? いちいち答えんの面倒だろうし」

 こっちが正直な答え。
 俺だって、誰彼構わず自分のこと聞かれたら嫌だし、面倒だし。

「俺は別にいいよ?」
「え?」

 瑛二の意外な反応に俺は間抜けな声を出してしまった。

「だって、俺のこと、もっと知りたいって思ってくれてるってことでしょ?」
「嫌なこと聞いたりするかもじゃん。好きになるやつは同じふうに目が見えないやつなの? とか」

 俺が流れで質問すると、瑛二の足がピタリと止まって、息を吞む音が聞こえた。