文化祭の準備でクラス看板の文字を黒のペンキでペタペタ塗っているときだった。

「コタ、なにぼーっとしてんの?」

 美香が看板を挟んで向こう側から俺の意識を確認するように手を振ってきた。
 それに気付いた日和も美香の隣で同じように手を振ってくる。

「俺、あいつのこと好きなのかな……って」

 ペタペタとしながら、半分無意識にぼそりとつぶやく。
 すると、美香と日和は俺の前で顔を見合わせた。

「え? いまさら?」
「そんなの大好きでしょ? だって、うちらの誘い断ってほぼ毎週会ってるんだから」

 身体を少し乗り出して、二人が興味津々に言ってくる。
 だが、違うだろ?

「いや、ほぼ毎週じゃねぇし、お前らも彼氏いるって言うから……」
「とっくに別れたよ、うちら」
「夏の終わりと共に終わってんの」
「は? ぜんぜんそんなの微塵も感じさせなかったじゃんか」

 女子って別れても未練とかねぇのかよ、と思う。
 彼氏と遊ぶとか出掛けると思ったから俺も空気を読んでいたはずだった。

「うちらが別れたことに気付かないくらい、瑛二くんに夢中ってことだよね」
「ねー」

 人のことなのに楽しそうに二人でハイタッチをする美香と日和。
 本当にこういう話、好きだよな。
 それに、人の恋の手助けをすぐしたがる。

「ねえねえ、瑛二くん文化祭に呼んでさ、告白オーケーしちゃいなよ」
「虎太郎も、素直に好きって言いな」

 圧が強くて、むむっと何も言えなくなる。
 まあ、そろそろ俺も瑛二の気持ちを受け入れようと思っていたから、いい機会なのか?
 でも、好きってどう伝えるんだ?
 普通に好きって言えばいいのか?

「はい、決まり」
「もう来週だよ、準備がんばろ!」

 俺が頭の中で考えていたら、勝手に瑛二を呼ぶことが決まった。