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「別に送ってくれなくても良いんだぞ?」
「まだ明るいから大丈夫」

 夕方にはまだ早い時間、俺と瑛二は駅に向かって、手を繋いで歩いていた。

 俺も母さんと餃子を作る約束をしてなければ、まだ瑛二の家で遊んでたかもしれない。
 テレビゲームはできねぇけど、瑛二の部屋には目が見えなくてもできる面白いボードゲームがたくさんある。
 最近ではUNOも点字がついてたりする。

「虎太郎、普通に手繋いでくれるようになったね」
「まあ、別にじろじろ見られねぇし、見られても気にしねぇし」

 瑛二が白杖を持っているからか、そういうものだと思って俺も認識されてるみてぇで、手を繋いで隣を歩いていてもへんな目で見られることはほぼない。
 暑い時期も過ぎたし、正直、これが一番自然でいい。

「虎太郎」
「なに?」

 突然、瑛二の足が止まって、尋ねる。
 一通りが少ない場所だから別に立ち止まってもいいが、一体なんだ?

「ねえ、虎太郎」
「んだよ?」

 答えても、その先に続く言葉はない。
 俺のほうを向いて

「虎太郎」

 ただ俺の名前を呼んで……。
 ああ、またか、と思う。
 どうせ、また言わねぇんだろう。

「だから、なん――」
「好きだよ」

 急な直球にどきりとする。
 まさかだった。
 またふざけると思ってたのに。

「今日は言うのかよ」
「好きだから」

 儚い笑みがそう続けて、なぜか自分の身体に白杖を立て掛けたと思ったら

「好き」

 自由になった手で俺の唇に触れた。

「……っ」

 一発で唇の位置を当てられたことにビックリしたのもあったが、俺は瑛二のこの行動で気付いてしまったことがあり、心臓が爆発した。
 
 ――こいつ……、さっきキスしようとして……。

「勝手に言ってろ……!」

 瑛二の手に白杖を持たせながら、そんな風にぶっきらぼうに言ってしまったが、ちゃんと考えてみれば、別に嫌じゃなかった。

 身体が瑛二の気持ちを受け入れようとしている。
 
 ――俺もそろそろちょっとは受け入れてやってもいいのかも……。