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「ちょ、ちょっと待って」
「あ? 手元狂うって!」

 膝立ちで瑛二の足の間に入って、慎重に瑛二の左耳にピアッサーをあてていた俺。
 ビビった瑛二がそんな俺をぎゅっと抱きしめるから、手が安定しなくて、なかなかスタッドを打つことができない。

「覚悟決めたんじゃねぇのかよ?」

 身体を引き剥がそうとするが、片手じゃ無理だった。

「少しだけこうさせて」

 さらにぎゅっとされて溜息が出そうになる。
 瑛二がこんなにもビビりだったとは。
 いや、見えないからなおさら怖いのか。

 俺のときはといえば、かっこいいと思われたい一心で勢いでいった。
 気付いたら、軟骨まで空けてて、やってしまえばなんてことないんだなと思った。
 ここは気持ちと勢いが大事だ。

「穴空けねぇと、おそろい着けられねぇけど?」

 仕方ねぇから、耳元で囁いて、少し卑怯な手に出る。
 あんなにもおそろいに喜んでいたのだから、こうすれば流されるだろうと思った。

「っ……、頑張ったら、虎太郎、ご褒美くれたりする?」

 俺の胸に顔を埋めた瑛二がぼそぼそとつぶやく。

「はあ? 自分から空けたいって言ったのに?」

 呆れた。

 しかも俺が空けてやるんだぞ? 
 8割甘やかしサービスだろ?
 10割いけってか?
 
「虎太郎がご褒美くれたら頑張れる気するから。ね、お願い」

 見えないはずなのに、間近で顔を上げて、俺に視線を向ける瑛二。
 俺は瑛二の「お願い」に弱い気がする。

「……ちなみに、そのご褒美ってなんだよ?」

 整った顔面攻撃に耐えながら、とりあえず尋ねてみた。
 へんなのだったら、それにツッコミを入れる勢いでピアッサー押し込んでやる。

「虎太郎の顔がどんな感じなのか、触りたい」
「前も触ってたじゃんか」
「違う、ちゃんと触りたい!」

 食い気味に言われて、ビビる。
 なにをそんなに真剣に言ってるのか、と思ったが、このままこの熱意をピアスに向ければ上手くいきそうだ。

「分かった。約束な」

 俺も真剣な声で答えて、再びピアッサーを瑛二の耳にあてる。