瑛二と水族館に行ってから二週間ほどが経った。

「これ、瑛二と一緒に選んでくれたんだってね」

 ピアッサーを買って瑛二の家に行くと、まあ、もう慣れたが、瑛二のお父さんにリビングへと呼ばれ、いつものがはじまった。

 お父さんの手元には瑛二と買った伊勢エビペンがある。
 やっぱり久しぶりに見てもカチャカチャうるせぇな、そのペン。

「っす」

 慣れても少しだけ緊張しながら答える。

「ありがとう、仕事で使ってるよ。web会議でよく、西さん、何の音ですか? って言われるけど」

 あははと笑われて、ほっとする。
 ほら、危なかった。
 あそこでお土産を忘れていたら、きっとへんな尋問を受けることになっていたはず。
 いや、違う、今日の難関はまだあるんだ。

「あのう、これから瑛二の耳にピアス空ける約束してるんすけど、大丈夫そうですか?」

 言いにくいところを仕方なく、そのまま伝える。
 一応配慮したつもりはあった。

「え?」

 でも、ほら、なんか雲行き怪しくなってきたじゃんか。

「ピアス、俺とおそろいになるんすけど、大丈夫そうですか?」

 追い打ちをかけて申し訳ないが、これを言っておかないと、また別の意味で尋問されることになる。
 だから仕方なく、俺は尋ねた。

「ええ?」

 しかし、雲行きがどんどん怪しくなっていく。
 やっぱり自分の息子の身体に傷がつくのは親として許せないよな。

「いや、ダメならいいんすよ? 止めてもら――」
「いいよ」

 ――いや、いいんかいっ! 

「いいんですか?」
「だって、瑛二が自分で決めたことだろう? ピアスくらい許すよ」

 お父さんは案外あっさりとしていた。
 むしろ子供の成長を喜んでいるような、そんな印象さえした。

 お父さんのこの感じ、やっぱり瑛二はいつも通りなのか?
 海のときの瑛二はたまたま考えごとをしていただけ?

 そう思ったが、お父さんにはなにも尋ねなかった。

「ほら、許したから、もう行っていいよ」

 そして、許された俺は解放され、ついにピアッサー片手に瑛二の部屋へと乗り込むのだった。