「あのさ、この前、虎太郎と買いに行きたかったの、ピアスなんだ」
「香水じゃなくて?」
「香水はまあ、いいかなと思って。それよりおそろいのピアスがしたい」

 瑛二が言っているのは、ファッションストリートに行こうとしたときのことだ。
 決まってるけど、決まってないってのはピアスを買うことは決まってるけど、どれを買うかは決まってないってことだったのか。

「んじゃ、これ、半分こすっか?」
「うん」

 両耳に着けるよりもアクセントとして片耳に着けたほうがいい気がして、俺はそう尋ねた。
 それに対して、すごく嬉しそうに頷く瑛二。

「本当に穴空けんのかよ?」
「うん」

 もう一回尋ねたが、瑛二の返事は変わらなかった。
 それから二人でレジに行って、クラゲのピアスを半分ずつお金を出して買った。

「買えてよかった」

 小さな水色の袋に入れられたピアスを片手で大事そうに持ちながら、瑛二は上機嫌である。
 もう外に出てきて、近くにある海の潮の香りが風に乗ってくる。

「なくさないように仕舞っとこうぜ、俺も手に持ってたら自信ない」

 そう言いながら俺は瑛二の手からピアスを取って、「このチャックついたポケットに入れるな?」とリュックのポケットに入れた。
 俺には前科があって、手にもらったお年玉を持っていて、落としたことがある。
 まあ、小学3年生のときだが。

「虎太郎、ありがとう」
「待て」

 瑛二にお礼を言われて気付く。

「お父さんへのお土産は?」
「あ」

 絶対尋問されると思って、俺はすぐに瑛二を連れてグッズ売り場に戻った。
 お土産に買ったのは伊勢エビのペンで、カチャカチャ無駄に動くやつ。
 ぜってぇ使いづらいと思った。