「ねえ、あれ、付き合ってるのかな?」

 女子大学生っていう感じの二人が少し離れたところから俺たちを見て言っているのに俺は気付いた。

 ――そうだ! いまここ! 人で賑わう、日曜日の水族館だった!

「瑛二、もう行こうぜ。グッズ、なんか買うか?」

 あくまで平常心でスマートに俺は瑛二から身体を離し、手を引いた。

「父さんになにか買おうかな、虎太郎手伝ってくれる?」

 グッズ売り場に入り、一旦手を離すと、白杖を折り畳んでリュックの横の部分に仕舞いながら、瑛二が聞いてきた。

「任せろ」

 もちろん張り切って答える。
 お父さんにはいつもお世話になってるからな、主に、面接練習で。
 いや、ここで買っていかなかったら、また尋問されるだろ?

「なにがいいかな? 仕事で使えるやつ、ペンとかかな?」
「ペンか……」

 悩んだように言われて、とりあえず、一緒にペンを探してみる。
 だが、俺の目は途中で別の物に留まってしまった。

「クラゲのピアスだ」
「ダサい?」
「いや、なんか、小さくて透明で綺麗だ。男でもいけそう」

 最初はよくある小さな石のついたスタッドピアスだと思った。でも、よく見てみると白いクラゲのユニセックスなデザインで、あまり目立たず普段使い出来そうな感じだった。

「俺、それ着けたい」
「は? 瑛二、穴空いてねぇじゃん」

 びっくりして確認して見てみるが、やっぱり瑛二の耳たぶにはピアスの穴なんかない。

「虎太郎が空けて」
「はぁ? おまっ、校則は?」

 衝撃発言に追撃を喰らって、思わず気にしてしまった。

「危ないとかじゃなくて、気にするところ、そこなんだ?」

 瑛二もなんでか嬉しそうに笑っている。
 さらには「立花盲学校高等部専攻科、校則で検索してみて」とか言うから、仕方なく、スマホで検索をかける。

「立花盲学校高等部専攻科生徒心得、本校生徒の一人としての態度を保ち、自身の目標に向かって、常に向上心を持って学習に取り組みましょう。ほら、言われてんぞ?」

「違う、もっと先」

 声に出して読むと、瑛二に言われた。

「もっと先? 1服装・頭髪等 服装は公教育の場にふさわしい服装を心掛ける。頭髪は清潔にし、整える。装飾品は指輪、ネックレス、ピアス等の着用について授業に支障のない程度とする」
「ほら、ほらね? 支障ないでしょ?」

 なんでそんな嬉しそうに言ってんだか、分かんねぇけど、別に読ませる必要までなかったんじゃねぇかと思う。

「まあ、そうかもしんねぇけど、ピアッサー買って空けて、一ヶ月くらいこれは着けられねぇんだからな? 穴安定しねぇと」
「調べたから知ってるよ」

 見つけてすぐ買う気になってるのが不思議だったが、その理由はすぐに分かった。