周りが見えないのに、どうやって、ここから抜け出す?

 そう焦っていたら、瑛二が

「よしよし、ちょっと待ってね」

 と俺をギュッとして、頭を撫でてきた。

 ――あ、れ?

 それから、自分のリュックから何かを抜き出して、わずかにカチカチカチという音がする。

「虎太郎、目瞑ってていいよ」
「え?」

 冷静なままの声でそう言われて、俺の頭はまだ理解出来なかった。

「はい、手はここね」

 ぎゅっと縮こまるような俺の身体を自分の横に移動させて、自らの左腕に導く瑛二。
 それはいつも瑛二が俺にしてるような体勢だった。

 ――嘘だろ?

 一度だけ軽く息を吸って吐く音がしたと思ったら、カチカチと白杖を振って、前に進んでいく。
 さっきの音、白杖を組み立てた音だったのか。

「すみません、通ります」

 誰がいるかも分からないまま、そう言って、迷いなく進む。
 いまのところ、白杖に当たるものはなにもないようだ。

「出口こちらでーす」

 数分もしないうちに出口を知らせるスタッフの声が近付いてくる。
 閉じた瞼の上が明るくなった気がした。

「大丈夫ですか? こちら出口です」

 スタッフから直接声を掛けられて、あの部屋から出たのだと気付く。

「もういいよ」

 なんともない、みたいな感じで瑛二から言われて、目を開けた俺は

「はっ、かっこよ……」

 と思わず、瑛二のことを見上げてしまった。

 よく考えてみれば、千早といつもああやって歩いてるんだもんな、とは思うがあまりにも安心感がありすぎた。

 ――いや、え?

「いや、ちょ、ちょっと待って、確認させて」

 俺は慌てた。