「ねえ、ずいぶんコタくんと違うタイプの子みたいだけど、どんな下心があって連れてきたの?」
「は、はあ? そんなんじゃねぇから」

 なんだよ、下心って。
 瑛二は男だし、知り合ったばかりだし、下心もなにもないだろ。

 たしかに、俺と瑛二は見た目のタイプがまったく違うし。
 俺は派手にはしてるけど顔は平凡で、瑛二は本人気付いてないけど道を歩けばすれ違った人が二度見するくらい美形だ。
 なにもなければ知り合いもしてないだろう。
 母親が疑うのも、まあ、仕方ないのか?

「ただ助けただけ?」
「そう」

 まったく、何を言ってんだか、と思いながら隣の部屋の前に移動する。
 そして、そこから瑛二に向かって声を掛けた。

「瑛二、いま、虎、連れてくるから」
「え? 虎を?」

 言葉だけでもうビックリしたような顔をする瑛二に、俺はふふんという顔をした。

「いざ、出陣じゃ! お前たち!」

 俺は勢い良く隣の部屋の扉を開けた。
 開けた瞬間、飛び出してくると思ったら、ノロノロノロノロ。

 ゆっくりダラダラ出勤してくる3匹の猫たち。

 黒猫の陸、茶トラの海、白猫の空、3匹とも保護猫である。

「え? なに? なにが出陣したの? 噛む? ねえ、噛む?」

 はっ、はっ、はっ、なかなかの狼狽えっぷりだ。

 ソファに座ったまま瑛二が左右の気配を確認しているが、まだ猫たちはぜんぜんそこに辿り着く様子はない。

「瑛二、こいつが虎だ」

 なかなか瑛二のところまで辿り着かないことに痺れを切らした俺は一番大人しい白猫の空を抱き上げて、瑛二の横に座った。
 そして、そっと、瑛二の膝に乗せる。
 同じネコ科動物だから、間違ってはないだろう。

「猫、だよね?」

 優しく触れるようにして、瑛二がほっと息を吐く。
 あれ? もしかして、猫には触ったことあった?

「そう、虎の赤ちゃんがこいつらくらいの重さで、大人の虎は最大350キロくらいだから100倍くらいか?」

 猫は大体大人でも3.5キロくらいだから、そうだろうという感じで言ってみる。

「ふわふわだ。俺、猫って初めて」

 瑛二は適応能力も高いらしい。
 もうすでに空の背中に顔を埋めたりしている。
 っていうか

「前世でどんな徳積んだら、そんな状態になるんだよ!」

 気が付いたら、陸も海も空も瑛二の膝を取り合うようにぎゅっとなって座っていた。

「俺だって、そんな状態になったことないのに!」
「コタくん、お友達を猫たちに取られたからって拗ねないの」

 唖然とする俺の肩を母親が優しく叩く。

 違う、そっちじゃない。
 俺は瑛二を取られたから文句を言ってるんじゃない。
 猫たちが瑛二を選んだから文句を言っているんだ。

「虎太郎、どの子が、どの子なの?」

 嬉しそうな顔で聞かれて、ムッとした顔も引っ込んだ。
 そもそも俺が連れて来たんだし、まあ、瑛二が楽しんでるならいいか。

「こいつが陸で、この毛並みがちょっとごわついてるのが海、それと細身なのが空」

 俺は隣で瑛二の手を掴んで動かして、猫を1匹1匹紹介していった。