俺が問い掛けると、瑛二はもう片方の手もガラスに付けた。
 震動とかするのだろうか、と思って、俺も付けてみるが分からない。

「んー、ちょっと冷たいかなって感じ」

 瑛二もそう言っていた。

「ゴポゴポって音する?」

 一緒に耳も近付けてみるが

「分からない」

 そう言われた。

 日曜日ということもあり、小さい子供がきゃっきゃっと走り回ってるから、音を聞き取るのは難しいのかもしれない。

 本当は中に大きなエイとか、イワシの群れとかいるんだが、仕方ないよな。

 ここは案外小さな水族館でイルカもアシカもシャチもいなかった。
 だから、ショーはない。

「瑛二、もうすぐ終わりそう。あ、でも、こっち、なにかある」

 横に出口が見えていたが、なにやらその手前に特別な分岐ゾーンがあるみたいで、俺は瑛二の手を引いて、そこに入った。

「ここは子供があまりいない。暗い」

 全体的に暗く、真っ暗な水槽が周りにたくさん置いてあるのが見えた。
 ただし、目が慣れてないからか、中身はいまのところまったく見えない。

 そして、暗いからか、案内の人が定期的に「出口はこちらでーす」と出口のほうから言ってるのが聞こえる。

「虎太郎、どんなところ?」

 いままでいたところより静かな場所で瑛二も気になったのだろう、自分から尋ねてきた。

「んー、暗くて、まだいまいち見えてこないな」

 どういうコンセプトの展示なのかがイマイチ分からない。
 暗い空間にわずかな青い光。

 ――なんなんだ? ほんとに。

 そう思って、瑛二と手を繋ぎながら一人でぐっと水槽に顔を近付けたときだった。

「うっわ! めちゃくちゃでかくて怖い魚いた! どうしよ!」

 ぬっと暗がりからとんでもなくデカい黒い魚が現れて、俺は思わず、瑛二の身体に抱き付いてしまった。

「ん? どんなの?」

 見えないからか、瑛二はすごく冷静な口調で聞いてくる。

「顔がでかくて、目がぎょろっとしてて、とにかくでかい! 深海魚か、夜に活動するアマゾンのでかい魚かも!」

 瑛二の胸に顔を思いっきり埋めながら、さっき見た魚の顔が脳裏に浮かぶ。
 めちゃくちゃ怖い! デカい! お化けより怖い!

「待って、もしかして、ここ、目が慣れたら、全部の水槽に怖いのがいるのが見えるんじゃ……」

 俺は顔を埋めたまま、そう呟いた。
 だから怖がって、子供たちいなかったのか。
 ちゃんとコンセプトを確認してから入ればよかった。
 ちょっと浮かれてた。

「どうしよ、瑛二、俺、怖すぎてもう見れない」

 ここでは見える俺だけが頼りなのに、どうしよう。