そして、ここで手を上げていることに気付いた周りの人が「前に行かせてやって!」とか謎の協調性を見せつけて、俺たちはあれよあれよと前に押し出された。
 気付けば、二人でステージの前まで来ていて、逃げ道はすでにない。

『どうやら見つかったみたいです』

 ここで謎に周りから拍手が起こる。
 それだけでも恥ずかしいのに、司会者はさらに続けた。

『大切な方から、一言いただけますか?』

 そう聞かれて、俺は黙っていた。
 そんな俺に千早が隣から肩を当ててくる。

「っ……瑛二! 早く優勝してそこから降りてこい!」

 それが俺の精一杯の叫びだった。
 ごめん、でも、話したいことがある、でもなく、早く降りてこい。
 降りてきて、早く俺に謝らせてくれ。

 そのあとのことは恥ずかしくて、俯いていて、あまりよく見ていなかった。
 でも、瑛二は結局、見事に優勝してしまって水族館のペアチケットをもらっていた。
 千早に聞いたところ、観客の拍手の大きさと審査員の票を総なめでそうなったらしい。

「瑛二、おつかれさま」

 ステージから降りてきた瑛二に千早がまずは声をかける。
 でも、俺は言わなくちゃ、言わなくちゃって、思って

「「ごめん!」」

 瑛二と俺の声が被った。

「いや、瑛二はなにも悪いことしてねぇんだって! 俺が100%悪かった! 理不尽に酷いこと言って本当にごめん!」

 見えないと思うけど、俺は勢い良く頭を下げた。

「違うんだ、虎太郎。俺も悪かったんだよ。虎太郎の話、ぜんぜん聞かなくて、ケンカするなって言って。でも、俺、藤白さんにたまたま会って聞いたんだ」

 俺の前に立って、オロオロした感じで瑛二が言う。

「え? 藤白?」

 俺は驚いて顔を上げた。
 なんで、そこで藤白の名前が出るのか、と思う。

「うん、誰だっけって最初びっくりしたんだけど、俺のところの最寄り駅の塾に通ってるんだって、駅でたまたま声掛けられてさ。最近、虎太郎とはどうかって聞かれたから、正直にケンカしちゃったって言ったんだ。そしたら、え、あの護身術を受けたんですか? って言われて」

 そこで瑛二はふっと笑って続けた。

「護身術? って聞き返したら、あ、なんだ、ケンカっていうからこの前みたいなのかと思った、って。でも、ないですよね? 虎太郎くん、自分からケンカに行くような子じゃないですもん、ヒーローだから、って」

 ――ヒーロー……。

 その言葉に少し胸がきゅっとなった。

「勘違いしててごめんね」

 瑛二もぺこっと頭を下げる。
 それから

「う、うん、いや、あと、あとさ、龍生が言ってた俺が困ってるっていうのは、そのお前からのスキンシップが恥ずかしくて、ってだけだから」

 一歩近付いて、顔を上げてくれって肩を掴んで、必死に弁明する。
 本当、本当なんだって。

「あ、ごめん、どうしても目が見えないから触れたくなるんだ」
「分かってるけど……」

 分かってるからそれ以外に言えなくて、オロオロしてしまう。
 すると、瑛二は顔を上げて

「ねえ、それ、虎太郎からならいいんだよね?」

 なんて言った。

「え?」
「俺、頑張ったでしょ? 褒めて」

 それから困惑する俺の手を自分の肩から取って、少し屈んだ自らの頭に持っていった。
 なにやってるんだよ、と思う。

「んだよ、それ、かわ……っ――」

 無意識に言ってしまってから、思わず、ハッとなって口をおさえた。

 ――え、俺いま、なに言おうとした?

 瑛二の頭に手を置いたままで視線を横に向けると、見えてないくせに千早がにやっとした顔をしていた。