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「ほんと僕、浴衣似合ってるよね」

 まだ日が沈みきっていない夏の夜のはじまり、弱視の千早は俺の隣でスマホを間近に見ながら道を歩いている。
 画面には俺の母親が撮った浴衣姿の千早が写っており、それをさらに拡大している見ていた。

「千早、スマホばっか見てんなよ?」
「虎太郎が先導してくれるから大丈夫だもん」

 一応注意したが、千早はスマホを仕舞おうとしない。
 まるでそれが当然みたいな言い方だ。

「だからって、白杖置いてくることないだろ?」

 思わず呆れたように言ってしまう。
 どんな絶対的な信頼を俺の目においてるんだか分からないんだが、千早も瑛二も白杖を俺の家に置いてきていた。

「人が多いところは折られそうなんだもん」
「まあ、それは仕方ないか」

 唇を尖らせて言われ、よく考えてみれば、そうか、とも思う。
 一応俺がちゃんと見てやらねば、とも思った。
 そんなときだ。

「……というかさ、いい加減、二人でも話してくれない?」

 そう言いながら千早は俺と瑛二の真ん中で怪訝そうな顔をした。
 普通なら俺を真ん中にするところなのだが、気が付いたら、自然とこうなっていた。
 俺の左腕を千早が掴み、千早が左手でスマホをいじっているのでその左肩を瑛二が掴んでいるという形だ。

 しかし、千早に言われても俺たちの重たい口は開かない。

「……もうっ」

 千早は見えにくい目で俺と瑛二を交互に見て、頬を膨らませた。
 だが、弱視でも会場の綺麗な提灯の光が見えたのか、目的地に着くと千早の機嫌はすぐに直った。

 それから、千早の行きたいところを優先して回り、食べたいものを買って、時折ちゃんと立ち止まりながら楽しんでいた。
 瑛二も千早とはなにかを話して楽しんでいるように見えた。

 この公園は住宅地や学校が近くにある。
 スタートから行ったからか最初、人混みはまばらだったが、時間が経ってくるにつれて人が多くなってきた。

 俺たちは夏祭りの人混みをなめていた。