◆ ◆ ◆

「ここ一段上がってるから」

 玄関に入るなり、俺は瑛二の手を引いて言った。

「お邪魔します」

 靴を脱いで、廊下を歩き、リビングの扉を開けると

「あらぁ、コタくんがお友達をお家に連れてくるなんていつぶりかしら」

あらあらと言いながら、俺の母親が笑顔でこちらにやってきた。

「母さん、コタくんって呼ばないで」

 高校生にもなって、母親にくん付けで呼ばれてるとか恥ずかしくて、俺は焦った。

「ごめんね、ママ、嬉しくて。いつも、つい口出しし過ぎちゃって」
「いや、別に、僕は……あ」

 しゅんっとなる母親に、なんだかすごく悪いことをしたような気分になり、フォローを入れようとして、しまったなと思う。

「コタくん、中学までは僕って言ってたから、たまに出ちゃうのよねぇ」
「い、言わなくていいから」

 俺のかっこいいライフがどんどん削られていく。
 ある計画で驚かせようと思って連れてきたのに瑛二も後ろで小さく「コタくん」ってこぼしてるし。

「はじめまして、西 瑛二です。コタ、あ、虎太郎くんにはこの前、道で助けてもらって」

 俺と母親の会話が切れたのを察知して、瑛二が自己紹介する。

「瑛二も別にそういうの言わなくていいからっ」

 母親の「あらあら」と「いらっしゃい」を遮って、俺は瑛二に言った。
 照れくさくて顔が熱い。

「とってもかっこよかったんですよ」
「え、瑛二……!」

 止めたのに止まらない。
 もう、それわざとだろ?

「コタくん、顔真っ赤」
「そういうのも言わなくていいって!」

 俺の母親は瑛二に分かるように言ったみたいだ。
 口には出さないけど、瑛二が見えてないって瞬時に理解したらしい。
 白杖は折りたたんでリュックに仕舞ったんだけどな。

「瑛二くん、はい、ここ座って」

 俺に笑い掛けて、母親がそっと瑛二の手を引き、リビングのソファに座らせる。
 そして、「ありがとうございます」という瑛二からそっと離れて、まだ扉の所に立っている俺のほうにすっと寄ってきた。

「ん?」

 疑問符を浮かべる俺に母親が静かに耳打ちをする。