「おい、やめろよ、それ言うの」
「なんだよ?」
俺が止めると龍生は「だって言ってたじゃんか」という顔をした。
たしかに言ったが、タイミングがよくない。
何も言えなくなって変な間が空くと「とりあえず、俺、バイト戻っから」と龍生はカフェに戻っていった。
「瑛二、ほんとごめんな、行こう」
顔を覗き込みながら、尋ねてみるが、瑛二からの返事はない。
「瑛二?」
俺は戸惑いながら、なにかを考え込んでいるような瑛二に再度声を掛けた。
そんな俺に
「虎太郎、今日はもう帰ろう」
瑛二は俯きながら小さな声で言った。
聞いた途端、罪悪感のもやが心に広がる。
「そう、だな」
ケンカに巻き込まれて、もう買い物なんて気分ではなくなってしまったのかもしれない。
今日は帰って、切り替えて、別の日に来たほうがいい。
そう思って、俺は素直に言うことをきいた。
俺のせいだ。
ハンドクーラーを手のほうにおろして、俺は瑛二の手を取った。
駅までの道も、電車に乗っても瑛二は静かだった。
「こわかったよな、本当にごめん」
ケンカしたことをこわがってるのかと思って、そう謝ったんだがずっと黙ったままで、どうしたらいいのか分からなくなる。
結局、瑛二の最寄り駅の改札までなんの会話もないまま来てしまった。
俺から、また別の日に行こう、と言えばいいのか?
どうしたらいい?
頭の中で考えていたのに、結果的に出てきたのは
「瑛二、またな」
で、出来るだけ優しい口調で言ったはずなのに、瑛二は暗い顔をしたままだった。
それに離れていくと思った瑛二の手は全然離れていかなくて、「どした?」と聞くしかなかった。
「虎太郎、もう……」
「え?」
駅前のざわざわとした音にかき消されて、瑛二の小さな声が上手く聞こえなくて、思わず、聞き返す。
すると、今度はとても大きな声が聞こえた。
「もうケンカしないで……!」
それは少し怒ったような口調だった。
「いや、俺も別に好きでしたわけじゃなくてさ」
場を少しでも和ませたくて、苦笑いを浮かべながら答える。
「俺には見えなかったけど、怪我するようなケンカだったよね?」
「いや、聞けよ」
「俺は、この先も虎太郎になにかあってもなにもしてあげられないし、気付いてあげられない。それが悔しい。俺は虎太郎を困らせる」
「それは、違ぇって」
まるで俺の言葉がなにも聞こえてないみたいに瑛二は怒りと悲しみを含んだ声で話し続けた。
「俺はまた自分の出来ないことを見つけてしまった。虎太郎を困らせて、最低で、かっこわるいよ」
「――悔しいのは俺だよ……!」
かっこいい瑛二の口から出た『かっこわるい』という言葉にカチンときてしまった。
「かっこよくなれなくて苦しんでる俺の気持ち、立ってるだけでかっこいいお前には分かんねぇよ!」
言うなってどこかで警告音が鳴っていたのに自分の中でプツリとなにかが切れて、止まらない。
「お前とは絶交だ!」
握っていた手を勢い良く振りほどいて、俺は走り出した。
「虎太郎!」
俺のことを呼ぶ、瑛二の声を無視して。
「なんだよ?」
俺が止めると龍生は「だって言ってたじゃんか」という顔をした。
たしかに言ったが、タイミングがよくない。
何も言えなくなって変な間が空くと「とりあえず、俺、バイト戻っから」と龍生はカフェに戻っていった。
「瑛二、ほんとごめんな、行こう」
顔を覗き込みながら、尋ねてみるが、瑛二からの返事はない。
「瑛二?」
俺は戸惑いながら、なにかを考え込んでいるような瑛二に再度声を掛けた。
そんな俺に
「虎太郎、今日はもう帰ろう」
瑛二は俯きながら小さな声で言った。
聞いた途端、罪悪感のもやが心に広がる。
「そう、だな」
ケンカに巻き込まれて、もう買い物なんて気分ではなくなってしまったのかもしれない。
今日は帰って、切り替えて、別の日に来たほうがいい。
そう思って、俺は素直に言うことをきいた。
俺のせいだ。
ハンドクーラーを手のほうにおろして、俺は瑛二の手を取った。
駅までの道も、電車に乗っても瑛二は静かだった。
「こわかったよな、本当にごめん」
ケンカしたことをこわがってるのかと思って、そう謝ったんだがずっと黙ったままで、どうしたらいいのか分からなくなる。
結局、瑛二の最寄り駅の改札までなんの会話もないまま来てしまった。
俺から、また別の日に行こう、と言えばいいのか?
どうしたらいい?
頭の中で考えていたのに、結果的に出てきたのは
「瑛二、またな」
で、出来るだけ優しい口調で言ったはずなのに、瑛二は暗い顔をしたままだった。
それに離れていくと思った瑛二の手は全然離れていかなくて、「どした?」と聞くしかなかった。
「虎太郎、もう……」
「え?」
駅前のざわざわとした音にかき消されて、瑛二の小さな声が上手く聞こえなくて、思わず、聞き返す。
すると、今度はとても大きな声が聞こえた。
「もうケンカしないで……!」
それは少し怒ったような口調だった。
「いや、俺も別に好きでしたわけじゃなくてさ」
場を少しでも和ませたくて、苦笑いを浮かべながら答える。
「俺には見えなかったけど、怪我するようなケンカだったよね?」
「いや、聞けよ」
「俺は、この先も虎太郎になにかあってもなにもしてあげられないし、気付いてあげられない。それが悔しい。俺は虎太郎を困らせる」
「それは、違ぇって」
まるで俺の言葉がなにも聞こえてないみたいに瑛二は怒りと悲しみを含んだ声で話し続けた。
「俺はまた自分の出来ないことを見つけてしまった。虎太郎を困らせて、最低で、かっこわるいよ」
「――悔しいのは俺だよ……!」
かっこいい瑛二の口から出た『かっこわるい』という言葉にカチンときてしまった。
「かっこよくなれなくて苦しんでる俺の気持ち、立ってるだけでかっこいいお前には分かんねぇよ!」
言うなってどこかで警告音が鳴っていたのに自分の中でプツリとなにかが切れて、止まらない。
「お前とは絶交だ!」
握っていた手を勢い良く振りほどいて、俺は走り出した。
「虎太郎!」
俺のことを呼ぶ、瑛二の声を無視して。