「なに一人でやられそうになってんだ? 虎太郎」
「龍生?」

 それは紛れもなく龍生で、黒いズボンに白いシャツ、それと黒いエプロンという格好をしていた。

「うわっ、こいつ仁坂高のやばいやつだ!」
「逃げろ! 骨粉砕されっぞ!」

 ヤンキーたちはすぐに龍生の正体に気付いて、負け犬みたいに走って逃げていった。

「骨粉砕なんかしたことねぇっての」

 逃げていくやつらの背中を見ながら龍生が不機嫌そうにぼやく。
 俺はそんな龍生の背中を見てショックを受けていた。

 龍生は戦ってすらいなかった。
 その体格と威圧感、それと勝手に生み出された噂でヤンキーたちを蹴散らした。

「はっ、かっこわる……」

 思わず、誰にも聞こえないくらい力無くこぼす。

 不良になったら、ケンカしたら、周囲からかっこいいって言われるかなとか思ってて、助けられる必要ないとか言って、結局、龍生に助けられて、救いようがないほどダメじゃん俺。
 やっぱ、俺みたいなやつはかっこよくなれねぇんだ……。
 調子乗ってた……。

「龍生、さんきゅー」

 出来るだけ明るい雰囲気を纏って、龍生に礼を言う。

「ちょうど、そこのカフェでバイトしてて、お前が見えたから」

 自慢するでもなく、驕るわけでもなく、龍生は普通にそう言った。
悔しいけど、俺はいい友達を持ったな、と思う。
 すぐそこに洒落たカフェが見えた。

「そこだったのか、助かったよ」

 ほっと息を吐きながら言うと、後ろから「虎太郎?」と瑛二が俺を呼ぶ声がした。
 龍生に先に礼を言わないとと思って、まだ声を掛けられていなかったのが申し訳ない。

「瑛二、ごめん、絡まれてないか?」

 ゆっくり近付いて、声を掛けると

「うん……」

 という小さな返事が返ってきた。
 気になったのか、龍生がこちらに来て、俺の横に立つ。

「瑛二、俺の高校の友達、龍生だ」

 とりあえず、龍生を瑛二に紹介する。

「どうも……」

 瑛二は小さくぺこっと頭を下げた。

「で、こっちがお友達の瑛二」

 今度は龍生に瑛二を紹介すると龍生はあろうことか

「ああ、例の虎太郎が困ってる人」

 と言った。
 たぶん悪気なくノリで言ったんだろうが、いまはよくない。