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「やっぱり暑いね」

 電車を降りて、駅を出ると、じりじりとした陽射しが俺と瑛二に襲い掛かった。
 にも関わらず、ファッションストリートに入れば、暑いけどそんなことより買い物だろ、という俺らと同じ年くらいのやつらが溢れていた。

「瑛二、人多いから、白杖振れないかも」
「虎太郎がいれば大丈夫」

 そんな会話をして、瑛二は白杖を真っ直ぐに持ったまま、俺と一緒に歩いた。

「で、なに買いたいんだっけ?」

 そういえば聞いてなかったな、と思って聞いてみると瑛二は「んー」と言った。

「え? 決めてねぇの?」
「ううん、決まってるけど、決まってない」

 俺が驚いて聞き返すと瑛二は訳の分からないことを言って笑った。
 本当に分からない。子供のなぞなぞみたいだ。

「ん? それ、どういう意――」
「あ! お前! あんときのやつ!」

 もう一回ちゃんと聞こうとして、急に前方から大声で指を差された。

 ――まずい。

 そこに立っていたのは赤髪、金髪、黒髪の藤白を襲おうとしたヤンキーたちだった。

 瞬時にキリキリと思考が回転する。

 やばいと思って、急いで瑛二の手を自分の腕から離して、俺は一歩前に出た。

「あ? なんだ?」

 三人だけかと思ったら、隣の怪しい店からさらに銀髪やら金髪が三人出てきて、赤髪のやつに問う。

「こいつ、この前俺たちのことボコったやつ」

 怒りを纏った赤髪の視線が俺を見下ろした。

 瑛二だけは傷付けたくない。
 だが、一緒に走って逃げるのも難しいだろう。

「虎太郎、どうしたの?」
「そこにいろ」

 焦ったように動こうとする瑛二を言葉で制止して、俺はヤンキーたちに向き合った。
 ケンカがはじまりそうだ、と誰かが警察に通報してくれたらどうにかなるかもだけど……

「この前はよくもやってくれたな!」
「……っ」

 赤髪からの拳をギリギリのところで避ける。
 少し遅れていたら鼻に入っていた。
 にしても、ここは路地じゃなくて表通りで周りに人が多いってのに、容赦がない。
 周りの人間たちは興味津々で見てるか、嫌そうな顔で見てくるか、スルーするか、のどれかだ。
 誰も止めようとは思わない。

「ちょっとお前ら手貸せ」

 空打った赤髪が他の五人に声を掛ける。
 嫌な汗が出て、心臓がバクバクと暴れ出す。

 いや、一人で六人は無理だろ!?
 瑛二だって、後ろにいるし、どうする……!?

「ほんと、しゃしゃってんじゃねぇぞ! このチビ!」

 考えている間に金髪の足が俺の身体目掛けて蹴り出される。

「いっ」

 手の平に当てて滑らせるようになんとかいなすが、次は上手くいくとは限らない。

「虎太郎、どうしたの!? 大丈夫!?」
「そっから動くな!」

 後ろから瑛二の声が聞こえた。
 すごく心配しているのが分かる。
 だが、いまは丁寧に返事をしている余裕がなかった。

「二人で行け!」

 赤髪の掛け声で銀髪と黒髪が卑怯な手に出始めた。
 左右から殴り掛かってきたのだ。

 ――まずい……! 殴られる……!

 さすがに無理だ、と諦めたときだった。

 急にスパンという音がした。

「お前ら、一人相手になにしてんだ?」

 それは俺の目の前に出てきた背の高い人物が大きな手の平で二つの拳を止めた音だった。