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 次の日の朝は色々とバタバタした。

「コタくん、外熱いから、この首冷えるシートのやつ。それとハンドクーラーね。瑛二くんと手繋ぐでしょ?」

「母さん、言い方。手じゃなくて、腕掴んでもらうだけだよ」

「はいはい、気を付けて行ってらっしゃい」

 まさか、そんな物まで用意してくれているとは思わなかったが、母親は俺よりも嬉しそうに準備して俺を送り出した。

 ――手繋ぐんじゃねぇし……。

 駅に向かって歩きながら、手首に着けられたハンドクーラーをサイズを変えて二の腕に着け直す。
 保冷剤をリストバンドにしたみたいなやつだ。

 ひんやりして気持ちよかった。

「……」

 瑛二のとこの最寄り駅に着いて、改札の中側で瑛二を発見して、俺は一瞬声を掛けるのを躊躇った。
 透明感があって凜としてる姿がとても絵になっていたからだ。

 そこに立った瑛二を通っていく人たちが二度見していくのは、瑛二が白杖を持っていることだけが理由ではないだろう。

 ――ほんと、かっこいいよな……。いやいや、早く声掛けねぇと。

 そう思った瞬間、不思議なことに瑛二がにこっと笑ったのが分かった。

「え? 気配、分かった?」

 思わず、近付いて尋ねてしまう。

「ううん、なんかそんな気がして」

 ふっと笑った瑛二が「こんにちは」と言う。
 なんだ、それ、と思いながら俺も「こんにちは」と返した。

 そして、ああ、そうだ、と思い出す。

「瑛二、ここ」

 隣に立って、瑛二の手をハンドクーラーの上に誘導する。

「ありがとう。これ、いいね。冷たい」
「まあ、たぶん、すぐぬるくなっちゃうと思うけど」
 
 瑛二が快適そうでよかった。
 帰ったら母さんにお礼しないとな、と思いながら俺たちは電車に乗って移動した。