そして、「触るね」と小さな声で言ってから、瑛二がまずは俺の肩に優しく触れる。
「それって、俺に言われたから?」
「そう」
俺の問いに答えながら、瑛二は大きな手の平を俺の肩甲骨あたりに添わせた。
それから手の平でそこをさすられたり、ぐっと押されたりして、普通に気持ちいい。
「虎太郎はどんな香りが好き? 次、なににしたらいい?」
「……別にいらないだろ」
熱い手が背中に移動して、息がもれる。
まずい、ちょっと眠くなってきた。
「でも、いつか一緒に合う香水、見つけに行ってくれる?」
「……んー、いつかな」
「虎太郎は優しいね」
結構な力がいるのだろう、瑛二の息が少し荒くなっているのが分かる。
練習したいっていったって、俺のためにこんなしっかりやってくれる瑛二のほうが優しいだろ、と思った。
「次、足ね、最後、腰やるから」
そろりと動いた手がふくらはぎに触れる。
リンパを流すみたいに手で押されて、じんわりと熱くなってきた。
怪我してると思ってる太ももをやるときは一番丁寧にほぐされた。
「ちゃんと効いてる感じする?」
「ん」
一度手が離れて、そう尋ねられたから、俺は正直に相づちを打った。
嘘じゃなくて、本当に気持ちいい。
だが、事件は瑛二の手が腰に移動したときに起こった。
――あ、れ?
腰をぐっ、ぐっと押されていると、違和感に一気に目が覚めた。
「んっ」
小さく声が漏れて恥ずかしくなる。
――お父さんも千早もこれ堪えられたのか?
腰を押される度に、違うほうに熱が集まっていく。
「ぅ、あ……」
刺激が強くて、抑えようとするのに、声が出てしまって、あれ? 瑛二気付いてるよな? って思ったのに、ぜんぜんやめようとしてくれねぇし、声も掛けてこねえし。
というか、さっきより強い……!
「瑛二、待……っ」
さすがにまずいと感じて、俺は瑛二の手を掴んで止めた。
「ん? 虎太郎、大丈夫?」
心配、というか優しい顔で尋ねてくる瑛二。
見えてねぇと思うけど、あまりにも恥ずかしくて、顔から全身から全部熱くて
「トイレ!」
俺は部屋を飛び出した。
そして、へんに前屈みなままで二階のトイレを目指す。
「瑛二―、今日の夕飯さ……」
そこでばったり、階段を上ってきたお父さんと鉢合わせ、ギョッとして横目で見てしまった結果、視線が合致してしまった。
お互いに動きの止まった俺とお父さん。
俺の現状、同じ男なら分かってしまうかもしれない。
汗がダラダラ出てくる。
これは「お父さん、違うんです!」と言ったほうがいまは怪しい。
『俺と瑛二はお友達』
という言葉がぐるぐる頭の中を巡って、俺はバタンとトイレに逃げ込んだ。