「虎太郎の名前って、どんな意味があるの?」
「は?」

 次の土曜日、瑛二からお礼をしたいと言われて一緒に静かなカフェに来た。
 おしゃれな苺のガレットを食いながら、そんなことを聞かれて、俺はぼけっと顔を上げた。

「いや、俺たちは基本点字の世界で生きてるからさ。どんな字なのかなって」

 透明感のある瞳が俺を見る。
 見えてないのに、すごい綺麗に食うよなと思いながら俺は

「俺も詳しい意味とか知らねぇけど、動物の虎っていう字は入ってる」

 と言った。
 
 いままで両親に名前の意味を聞いたことはなかった。
 俺も別に気にしたことなかったし、ずっと気にしてるのは身長のことだけで。

「へぇ、虎って、どんな動物なんだろう? 獰猛な肉食動物だってことは情報的に知ってるんだけど」

 瑛二は想像するように言った。

 本人から話を聞いたところによると、瑛二は生まれつき光覚という光が分かるくらいの視力しかないらしい。
 だから、人の顔も見たことはないし、色も知らない。
 でも、できることは自分でやるし、なにより、コミュ力がすごい。
 店員とかにどんどん話し掛けていって、ここのメニューも自分で聞いて自分で選んで、むしろ俺のほうが置いてかれてるっていうか……。

「虎太郎、聞いてる?」
「お、おう。――瑛二、アレルギーとかあったりするか?」

 瑛二に声を掛けられて、俺は思考の世界から戻ってきた。
 そして、いいことを思い付いた。

「アレルギー? いまのところないと思うけど、なんで?」

 不思議そうな顔をする瑛二。

「虎ってもんを教えてやるよ」

 俺はそう言いながらにやりと笑った。
 これから起こることで瑛二がどんな反応をするのかが楽しみだ。