「虎太郎、嫌な思いさせてごめんね」

 人目を気にせずギュッとされるのは百歩譲って許せても、また謝られて、ちょっとムカッとする。

「そのすぐ謝る癖やめろよ。言葉で自分を傷付けるやつも嫌いだ。それと俺が一番嫌だったのは……瑛二と、お友達……やめる……こと……だし」

 早口でまくし立てる且つゴニョゴニョ言ったから、最後のほうはあまり聞こえていなかっただろうが、俺は言いたいことをすべて告げた。

 正直なところ、明莉さんに瑛二から離れてくれって言われたとき、俺は嫌だった。
 お友達をやめたくはなかった。
 自分に問い掛けて返ってきたのは、「なんともないなんて認めたくない」だったんだ。

 きっと、明莉さんが瑛二を諦めてくれないと俺はお友達を続けられていなかった、と思う。

「だから……」
「虎太郎?」
 
 ――だから、だからさ……!

「香水は捨てろ、俺がそこ代わってやるから」
「え?」

 ほとんど勢いだけの発言だった。
 聞き返されて、顔が熱くなって

「勘違いすんなよ? 別に付き合うとかじゃねぇから」
「いっ」

 俺は瑛二の脇腹を軽く叩いて、腕から抜け出し、意味不明に「じゃあな! 覚えてろよ?」と吐き捨てて走り出した。

「え? 捨て台詞……?」

 後ろからそんな声が聞こえた気がしたが、聞こえないフリをした。