「やっぱり俺は虎太郎が好き。お友達だけど」
「……っ」

 不意打ちで、さっきまで平穏だった俺の心が脅かされた。
 『ちょっと待て』『俺たちはお友達だ』『なんとも思ってない』
 そんな言葉たちが俺の平穏を取り戻す。

「この前、本当は女の子に告白されそうになってたんだよね? 邪魔してごめんね」

 まただ。
 すぐ瑛二は謝る。

「もう別に気にしてねぇし……、俺も、なんとなく罪悪感あったし……」

 藤白から俺への矢印が消えた瞬間、なんつーかほっとしたというか、すっとしたというか、不思議な感覚だった。
 どう答えれば正解なのか。
 この次、なにを言えば……、そう思ったときだった。

「ちょっと大丈夫? どっか怪我した?」

 サイドフェンスの向こう側から若い女の人が声を掛けてきた。
 俺たちがフェンスギリギリのところでなかなか立ち上がらないから心配して来てくれたようだ。

「いや、怪我はしてないと思う」

 知り合いなのか、瑛二は普通に返事をして、ね? とこちらに尋ねてきた。

「ないっす」

 流れに任せて緊張しながら答える。
 長い黒髪をポニーテールにしてる女の人があまりにも綺麗だったからだ。

「瑛二くん、その子、初めて見る子だね」

 俺を見てにこっと瞳が細められる。
 瑛二はなんて答えるのかと思ったら

「あー、気に入ってるお友達」

 って、なんだその微妙な表現。
 心の中で笑ったけど

「瑛二くん、私があげた香水まだ使ってくれてるんだ?」

 先に立ち上がった瑛二が女の人に近付いた瞬間、俺は固まることになった。

 ――は?