――俺、怒っていいんだよなぁ? 大事なタイミング邪魔されて。

「瑛二ぃ、お前さ、お友達って意味分かってる?」
 
 怒りを込めて、振り返ると案外簡単に瑛二の腕が解けた。
 瑛二の「い」の部分で歯を噛み締めすぎてギリギリという音がしたことは瑛二も気付いたことだろう。

「分かってるよ、俺と虎太郎はお友達」

 そう言う瑛二は冷静かつ真面目な表情と声音だった。
 いや、そこはかとなく、儚さも混じってる気がする。

「分かってて、なんで……、つか、俺、別に守ってもらう必要とかねぇから」

 さらに分からせるために、俺はぺしりと瑛二の手を軽く叩きながら言った。

 可愛いって言われるのが嫌で、ああいう扱いもそんなに好きじゃねぇけど、無理矢理引き剥がしてもらうほど困ってねぇし、だから……

「うん、俺も守ってもらう必要ないよ」
「へ?」

 俺の頭の上にハテナマークが連続して出た。

 ――はあ? なに言ってんの?

 瑛二はなぜ、いま自分もそれを言ったのか。
 理解出来なくて、ハテナマークが出続ける。
 そんな俺に瑛二がさらに追い打ちを掛けた。

「俺、それを証明したいから、日曜日、午前十一時にここの近くの総合センターに来て」
「え? え? なに?」

 こんな訳分かんないこと言われるほど、僕、なにか悪いことしたっけ? ってすっかりヤンキーがどっかいった頭でどうにか言葉を探す。
 それなのに瑛二は

「じゃあ、またね、虎太郎」

 優しく微笑んで、俺に背中を向けた。
 そして、その足で駅の改札に向かっていく。

「は? はぁあああ?」

 俺の叫びはきっと瑛二には聞こえなかっただろう。
 カツカツって白杖を使いながら、やっぱり歩くのが速くて、瑛二の姿はすぐに見えなくなった。