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『あはは、もうやだー、コタいないの気付かないって』
『虎太郎、どこいったんだろ? って電車乗って気付いたんだよね、ほんとごめんね』

 しばらくして、グルチャにそんなメッセージが来ていた。
 まあ、藤白のフォローに必死だったんだろうし、悪気はなかったんだろうな、と思う。
 あんまし深く考えない。そこが美香と日和のいいところでもあるんだよな。

「佐藤くん、昨日はありがとう」

 昨日は俺がいないことに気付くまで女同士の友情を深め合ったようで、朝から俺らのグループに藤白が居た。
 藤白は元々真面目なお一人様タイプって感じだったんだけどな。

「いや、別に……」

 いまになって人見知りみたいなもんが出た。

「ねえ、虎太郎くん、って呼んでもいい?」

 藤白が首を傾げると黒いストレートな髪がさらりと揺れた。
 それを耳にかける仕草にちょっとどきっとする。

「おう、別にいいけど」

 佐藤って名前、ありふれててそんなに好きじゃねぇから下の名前で呼ばれることにはあまり抵抗がない。
 だから、そう答えたんだが、美香と日和があやしく口角を歪めながら俺と藤白のことを見ているのに気が付いた。
 龍生もこちらを黙ってじっと見ている。

「なにニヤニヤしてんだよ? お前もこっち見んな!」

 思わず吠えるが、三人には通用しない。
 龍生はこっちをじっと見つめたままだし

「だって」
「ねー」

 美香も日和もにやけ顔で始終、ちらちらと俺と藤白を見ていた。
 
 まあ、そのうち落ち着くだろうと思っていたんだが

「虎太郎くん、移動教室一緒に行ってもいい?」
「へ? まあ、いいけど」

 ――あ、れ?

 ある日は移動教室へと並んで歩き

「虎太郎くん、お菓子研究部でクッキー焼いたんだ。あげる」
「ん、ありがと」

 ――あれれ?

 ある日は放課後にクッキーをもらい

「虎太郎くん、一緒に帰ろ? あと、手つないでもいい?」
「ん? お、おう」

 そして、ある日は一緒に手をつないで帰ることになった。
 後ろにニヤニヤしている美香と日和、それと真顔の龍生がいるのが気になる。

 ――え、なんで? なんで、こうなった? というか、すげぇドキドキすんじゃん。

 正直、積極的すぎる藤白には戸惑う。
 だが、いや、もしかして、自信過剰かもしんねぇけど、これ、そのうち告白されんじゃね? と思った。