でも
「いいからいいから」
そう無邪気な感じで言われてしまっては俺も断れない。
まあ、使い方聞いたの俺だし。
「ん」
大人しく瑛二の足の間に入ってテーブルのほうを向くと、まず、瑛二が紙を手に取った。
「紙セットして、はい、これ持って」
「……っ」
紙の準備を終えて、俺の背中と瑛二の身体が密着する。
そして、短いアイスピックみたいな道具を持った俺の手の上から瑛二の手を重ねられて、一瞬、息が止まった。
――なんでちょっとドキッとした? 俺。
「読むときは左から読むんだけど、打つときは裏返しで反対から打つんだ」
真剣な声に我に返される。
いま、瑛二、さらっととんでもないこと言ったな。
「え、それってすごくね?」
だって、鏡文字みたいなもんだろ?
それ覚えて、瞬時に変換して打ってるんだよな?
「ふふっ、これがコ・タ・ロ・ウ」
俺の耳元で微かに笑いながら、瑛二が俺の手と一緒に自分の手を動かして、器用に点字を打っていく。
一つずつ、プツ、プツと紙に点を打っていく感覚が手に伝わった。
――これが点字……。
「瑛二は?」
自分の名前を打ち終えたあとに自然とそう尋ねていた。
「ん? これがエ・イ・ジ」
俺の肩に顎を置いて、瑛二が俺の手を動かしていく。
瑛二の手、でかいし、手まで綺麗なんだな、と思う。
それに、ちょっと、やっぱり瑛二の声は耳がこそばゆい。
「はい」
瑛二の名前を打ち終わったあと、瑛二は紙を外して、俺に手渡してくれた。
裏返しにして、左から指でなぞる。
「おー」
字としては理解できないけど、感覚が新鮮で何度も点の上をなぞった。
――俺の名前と瑛二の名前……。
「気に入った? あげるよ、それ」
俺が何度も点字をなぞっているのに気付いたのか、後ろから瑛二にそう言われて
「マジ? ありがと」
って思わず小さいガキみたいにはしゃいじまった。
でも、もらってどうすんのか、ってそんなことはぜんぜん気にならなかった。
自分の部屋のどこに飾ろうかと思っているときだった。
「虎太郎、なんか甘い匂いする」
瑛二が俺の耳元で小さく呟いた。
「さっきのグミじゃねぇの?」
甘い匂いってなんだっけ? と思いながら答える。
「ううん、柔軟剤かな」
「へ?」
少し腕に力を込めて、抱き寄せられて瑛二の鼻先が俺の肩に埋まった。
俺の甘い匂いって、まじでなんだ?
口に出しては言わねぇけど、断然、瑛二のほうがいい香りがする。
それは絶対柔軟剤とかじゃない。
「ちょっ、あんまし顔埋めんなよ」
悲しいかな、体格差で俺の身体は瑛二の身体にすっぽり覆われてしまっている。
「俺たちにとって視覚以外の感覚がとても重要になってくるから」
「そうかもしんねぇけど……!」
なに真面目な声で言ってんだよ。
俺の匂い吸う必要、どこにある?
やばい、なんか分かんねぇけど、心臓バクバクいってる。
「虎太郎の匂い、癒される」
ドドドドッって心臓が一番うるさくなったときに瑛二が吐息混じりに言った。
――え、俺、猫と同じ扱い?
そう思った瞬間、急に心臓の鼓動がおさまってきた。
すんってなった。
「いいからいいから」
そう無邪気な感じで言われてしまっては俺も断れない。
まあ、使い方聞いたの俺だし。
「ん」
大人しく瑛二の足の間に入ってテーブルのほうを向くと、まず、瑛二が紙を手に取った。
「紙セットして、はい、これ持って」
「……っ」
紙の準備を終えて、俺の背中と瑛二の身体が密着する。
そして、短いアイスピックみたいな道具を持った俺の手の上から瑛二の手を重ねられて、一瞬、息が止まった。
――なんでちょっとドキッとした? 俺。
「読むときは左から読むんだけど、打つときは裏返しで反対から打つんだ」
真剣な声に我に返される。
いま、瑛二、さらっととんでもないこと言ったな。
「え、それってすごくね?」
だって、鏡文字みたいなもんだろ?
それ覚えて、瞬時に変換して打ってるんだよな?
「ふふっ、これがコ・タ・ロ・ウ」
俺の耳元で微かに笑いながら、瑛二が俺の手と一緒に自分の手を動かして、器用に点字を打っていく。
一つずつ、プツ、プツと紙に点を打っていく感覚が手に伝わった。
――これが点字……。
「瑛二は?」
自分の名前を打ち終えたあとに自然とそう尋ねていた。
「ん? これがエ・イ・ジ」
俺の肩に顎を置いて、瑛二が俺の手を動かしていく。
瑛二の手、でかいし、手まで綺麗なんだな、と思う。
それに、ちょっと、やっぱり瑛二の声は耳がこそばゆい。
「はい」
瑛二の名前を打ち終わったあと、瑛二は紙を外して、俺に手渡してくれた。
裏返しにして、左から指でなぞる。
「おー」
字としては理解できないけど、感覚が新鮮で何度も点の上をなぞった。
――俺の名前と瑛二の名前……。
「気に入った? あげるよ、それ」
俺が何度も点字をなぞっているのに気付いたのか、後ろから瑛二にそう言われて
「マジ? ありがと」
って思わず小さいガキみたいにはしゃいじまった。
でも、もらってどうすんのか、ってそんなことはぜんぜん気にならなかった。
自分の部屋のどこに飾ろうかと思っているときだった。
「虎太郎、なんか甘い匂いする」
瑛二が俺の耳元で小さく呟いた。
「さっきのグミじゃねぇの?」
甘い匂いってなんだっけ? と思いながら答える。
「ううん、柔軟剤かな」
「へ?」
少し腕に力を込めて、抱き寄せられて瑛二の鼻先が俺の肩に埋まった。
俺の甘い匂いって、まじでなんだ?
口に出しては言わねぇけど、断然、瑛二のほうがいい香りがする。
それは絶対柔軟剤とかじゃない。
「ちょっ、あんまし顔埋めんなよ」
悲しいかな、体格差で俺の身体は瑛二の身体にすっぽり覆われてしまっている。
「俺たちにとって視覚以外の感覚がとても重要になってくるから」
「そうかもしんねぇけど……!」
なに真面目な声で言ってんだよ。
俺の匂い吸う必要、どこにある?
やばい、なんか分かんねぇけど、心臓バクバクいってる。
「虎太郎の匂い、癒される」
ドドドドッって心臓が一番うるさくなったときに瑛二が吐息混じりに言った。
――え、俺、猫と同じ扱い?
そう思った瞬間、急に心臓の鼓動がおさまってきた。
すんってなった。