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 ピピピピピッ、ピピピピピッ

 しばらく勉強して、誰かのスマホのタイマーが鳴った。

「あ、僕、帰る時間だ」

 まだ三時間くらいしか経ってないが、用事でもあるんだろう、千早が言った。

「瑛二のパパさんに玄関閉めてもらうから下まで来なくていいよ」
「そう? 気を付けて帰ってね」

 こういう感じが小さい頃からこの家に来てるって感じがする。
 階段の段数覚えてたり、玄関までの道覚えてたりするんだろうな、って。

「気を付けろよ?」

 扉を出るところで俺が声を掛けると千早がピタリと動きを止めた。

 ――な、なんだよ?

「虎太郎、僕が居ない間に瑛二とイチャイチャしないでよ?」

 振り返って、視線は合わないがすごい睨まれてる感じがする。

「何言ってんだ、バカか。早く帰れ」

 はっ、と笑って見送ってやる。
 イチャイチャするわけねぇじゃんか。
 だって、俺と瑛二はお友達なわけだし。

「なんか疲れたな」

 わちゃわちゃと騒がしいのが去って、少し疲れを感じた。
 今日は結構集中して勉強してたし、ここらへんで休憩を、と思って、自分の鞄からグミの袋を取り出す俺。

「瑛二、口開けて」
「ん? なに?」

 隣に言って、声を掛けると瑛二は戸惑いながらもそろりと口を開いた。

 そこに紫色の丸いグミを軽く投げ入れる。

「っ! すっぱ! なにこれ!」

 噛んだ瞬間、顔をしかめる瑛二。

「俺がいまハマってるやつ」

 予想通りの反応で、俺はへへっと悪戯に笑った。
 まあ、悪戯用っていうより、頭リセット用のグミなんだけど。

「千早にもあげればよかったな。いまのいままで忘れてて」

 『スーパーすっぱい!!』とか書かれてるグミの袋を眺めながら、俺は言った。
 千早も勉強頑張ってたし、どうせなら仲間に入れてやればよかった。

「本当、虎太郎っていい子だよね。――はい、俺も、これ、あげる」

 ふっと笑った瑛二が、今度は自分のリュックからグミの袋を取り出して、一粒摘む。
 
 ――ん? これ、俺も手から食えってこと?

「ん」

 そのままだと角度が難しくて、俺はグミを持った瑛二の手を優しく掴んで自分の口に運んだ。

「甘いな、これ。でも、美味い」

 味に丸みのある甘いグミだった。
 小さい子が好きそうな、そんなグミ。
 形は星型だ。

「うん。もらって、ずっと気に入ってるやつ」

 俺が手を離すと、瑛二はその部分にしばらく自分の手を添えていた。
 優しく掴んだはずだったんだが、痛かったとか?

「ふーん」

 なんとなく気まずくなって、そうこぼす。
 誰にもらったとか、ちょっとは気になるけど、まあ聞かない。

 そんな俺の目が点字の道具にとまる。

「それ、どうやって使うの?」

 単純な疑問だった。
 小学校で体験として使うところもあるっていうけど、俺はやった記憶がない。

「気になる?」

 俺が聞いた瞬間、瑛二は食い気味でそう尋ねてきた。
 なんで、そんな嬉しそうな顔してんだか。

「こっち来て」
「え、そこ座んの?」

 とんとん、と瑛二の足の間を手で叩かれて、ちょっと戸惑う。