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「そっか、点字だった……」

 瑛二も高2だし、同じくらいに試験があって、同じような勉強をしているだろうと思って、声を掛けてみれば、「じゃあ、日曜日、お昼食べてからうち来たらいいよ」って瑛二が言ってくれて、よし、これで分かんないとこ教え合えるじゃんって思ったのに……。

「なんで、千早まで居るんだよ」

 片付けられた静かな瑛二の部屋で俺はぼやいた。
 千早は居るし、テーブルの上にあるのは点字の教材とその道具だし、俺の確認不足だけれども。

「だって、僕も試験勉強したいし、分かんないとこ瑛二に教えてもらいたいもん」

 ――そっちは成立するんだよなぁ。

 やる気満々で色々と準備する千早に俺はジトッとした視線を向けた。
 なんで俺、こんなに必死になってんだか分かんないけど、せっかくなら仲間に入りたい。
 せっかく良いこと考えたと思ったから俺の中の俺がすごいガッカリしてんのかもしんない。

「千早、今日点字にするの?」
「うん。拡大鏡、目が疲れるからさ」
「そっか。調べ物あったら俺の点字ディスプレイ使ってもいいよ」
「ありがとう。持ってくるの面倒くさいから置いてきちゃったんだよね」

 瑛二の部屋は広くて、準備されたテーブルも結構でかくて、その上に色々と機械とか道具を置いていく二人。

 ――拡大鏡? 点字ディスプレイ?

 仲良い空気に上手く入り込めなくて俺は

「へぇ、そういうので点字って打つのか」

 しか言えなかった。

 完全に一人だけ蚊帳の外。

 と思ってたら

「これ点字盤って言うんだ。タイプライター式のもあって、ただ打つならそっちのほうが早いんだけど、それだと覚えにくいから、手で直に打ったほうが覚えられるんだよね」

 短いアイスピックみたいなやつと金属の穴の空いた定規みたいなやつ、それとバインダーみたいなものを見せながら千早が教えてくれた。

 ――優しいじゃんか、千早……。

 まあ、たしかにパソコンで文字打つより、ノートに手書きしたほうが俺も覚えられるもんな、と思った。

 そんなときだ。

 コンコンッ

 急にドアがノックされて、ビビった。
 だって、この部屋に入るまでの間に誰にも会ってないから。

「あ、父さん」

 足音とか、気配とかで分かるのか、扉が開いた瞬間に瑛二が言う。

「お邪魔してまーす」

 千早が気軽に挨拶したところで俺の視界に瑛二の父親の姿が入り込んだ。

 ――お父さん、身長でかっ!

 瑛二の身長がでかいのと顔が整ってるのは父親似のようだ。
 部屋の中の様子を慎重に伺うような真顔が怖い。

「こ、こんちわ」

 え、瑛二の父さん、家にいたの? って思いながらも俺はちゃんと挨拶をした。
 俺たちが家に入ってきたときは別の部屋に居たのか、出掛けていたのかもしれない。
 今日、日曜日だしな。

 そう勝手にほっとした瞬間、瑛二の父親の視線が俺に向いた。

「うん、君、ちょっと来て」
「え?」

 一人だけ手招きされて、戸惑う。

「いいから、ちょっと来て」
「はぁ」

 鋭い眼光のまま呼ばれて、仕方なく部屋から出る。
 そして、そのまま、一階に連れて行かれて、ダイニングテーブルに向かい合って着席。

 ――え、な、なんだ? 怖いんだが? 俺、怒られるのか? 見た目か?