6月になった。瑛二からはたまに夜に電話が来るくらいで、接点もなく、「お友達から」なんて言ったけど、このまま俺たちの友情関係は消えていきそうだ。

 このまま消えたら、あんなに騒いだ意味がないっていうか、俺が馬鹿らしいっていうか。

 ――つっても、ほんとに話す内容も会う理由もないんだよなぁ。

「なーんで、テストって定期的にあるんだろ」

 四つ向き合うように付けた机で定期考査の勉強をしながら、美香がぼそりと呟いた。
 その視線はすでに手元のノートから外れていて、窓の外に向けられている。

「龍生、数学の範囲分かりそ?」

 日和は斜め前に座る龍生に数学の範囲を聞き、龍生は意外にもちゃんと範囲を把握してるようで、「こことここ、それと……」と教科書を指差していく。

 俺たちの通っている高校はそんなに偏差値が低くない。
 だから、逆に制服とか髪に関して厳しくないというか、まあ、注意されることにはされるんだが。

「虎太郎」
「あ?」

 急に龍生から名前を呼ばれて、つい、眉間に皺を寄せて顔を上げてしまった。

 実は俺の不良ムーブは龍生を真似ているところがある。
 高校入学時に同じクラスで、「あ、こいつ、不良だ。こいつ真似すれば、俺もかっこいい不良になれっかも」という単純な理由で、近付いて、真似して、今に至る。
 まあ、憧れ、みたいなもんも一ミリくらいはあったかもしれない。

「お前にも教えてやろうか?」

 正面に座る龍生と目が合う。
 とんとんと数学の教科書を指で叩かれて、すんと俺の眉間の皺が消えた。

「お、おう、ありがと」

 見た目ヤンキーでいつも授業中寝てるのにそれなりに勉強できるって強ぇよな。
 バイトだってしてるのに。
 いつ勉強してんだよ?

 あと、見た目に反して意外と面倒見がいい。
 怖いって言われて俺ら以外には避けられてっけど、ぜんぜん悪いやつじゃないんだよな。

「龍生~、この数式分かんないよぅ」

 数学の範囲聞いてたら突然の美香、割り込みー!
 さっきまで一人別世界行ってたくせに、どんなタイミングで帰ってくんだよ。
 龍生も仕方ねぇなって顔で教えてやってるし、え、俺の範囲は?
 いや、待てよ?

「そうか! これだ!」

 俺は勢い余ってガタンと立ち上がった。

「え、どうしたの? 急に」
「トイレ?」

 三人の冷めた視線が俺に刺さる。
 しまった、良いことを思い付いたと思って、つい。

「いや、なんでもない」

 ちょっと恥ずかしかったが、席に座り直して、俺はふふんと内心笑っていた。