「普通に揶揄われたと思って。俺に振られて三日で、というか、その前からそいつと付き合ってたんじゃねぇのって」

 こんなこと言ってるけど、絶対に違う。
 普通に揶揄われたら、誰でも腹立つだろ。

「揶揄ってないよ。それに千早とは小学校から同じ盲学校に通ってて仲良しなだけ。付き合ってない」
「僕は瑛二のこと大好きだけどね」

 またピトッと瑛二にくっ付く千早。

 じゃあ、幼少期からこの二人の距離感はバグってるってことか。
 ムッという顔を向けても意味ないってことは分かっていても、俺は千早にその表情を向けた。
 空気で把握してんのか、一瞬沈黙が流れる。
 なんか、ムカつくんだよな、こいつ。

「――そんで、連絡もしてこねぇし」

 仕切り直して、そう付け足すと

「それは俺、虎太郎に振られたし、嫌われたと思ったから」

 と瑛二は答えた。
 伏せた睫がやっぱり長くて綺麗だ。
 整い過ぎてて見てると緊張する。

「べ、別に連絡取ったりすんの、やめる必要ねぇだろ? 俺、瑛二のこと嫌いになったわけじゃねぇし。連絡来たら、普通に返すし」
「え?」

 戸惑ったような瞳がこちらを向く。
 透明感のある瞳にさらに緊張する。
 見えてないはずなのに、なにもかも見透かされてるような、そんな……。

「だから、友達やめる必要はねぇんじゃねぇの? って」

 そっか、俺が本当に腹立ててたのこれだったのか、って自分で口にしてやっと気付いた。
 一方的に好きになられて、こっちが振ったら友達関係もさよならって、どっちもなんだかよく分かんない罪悪感抱えて。

「なにそれ、お友達からってやつ?」

 ふっと笑いながら千早が言う。

「そうだ、お友達からってやつ! 勘違いして怒ってごめん!」

 勢いで俺は言った。
それと同時に手を差し出すけど、瑛二は気付かない。

「瑛二、手」

 俺が言うと、瑛二は左手を差し出した。

「よろしく」

 こちらが右手だから、噛み合わなくてなんかわちゃわちゃして、結局、瑛二がお手してるみたいになってしまったけど、まあいいか、と思った。

「虎太郎、いい子じゃん。僕とも連絡先交換してよ」
「それはダメ。俺を通して」
「なんでだよ」

 なんで瑛二、俺の事務所みたいになってんだよ、って思わず笑ってしまった。