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「つって、なんでカラオケだよ?」

 移動しようと言われて来たのがカラオケ。
受付の人が配慮してくれたのか、短時間利用だからって団体向けのやけに広い部屋に案内されて、マイクも端末も初期位置から動かさないままで、電気も点いてて、モニターは消えてる、といういままでに見たことがないカラオケの使い方をしているわけだが……。

「俺たち、来る機会ないから来てみたくて」

 L字になったソファに俺、瑛二、千早の順番で座ってて、瑛二が答えた。
 千早は「音が響かないんだね」とか言ってて一人楽しそうにしてる。

「で、えっと、まず、咄嗟にそれって言ってごめん」
「あ、いや、俺も胸ぐら掴んでごめん」

 ぺこっとお互いに頭を下げ合う俺と瑛二。

 俺も咄嗟になったら「それ」って出ると思う。正直、どこに俺がいるかも分かんなかっただろうし。俺も急に胸ぐら掴んだわけだし。

「というかさ、理不尽すぎない?」

 次、なに言おうかな、と思っていたら、口を開いたのは千早だった。

「は?」

 なんのことだ? と思った。

「だって、君、瑛二のこと振ったんでしょ? せっかく告白してくれたのに、振って、勝手に腹立てて」

 瑛二の向こう側に座った千早が偉そうに足と腕を組んで俺に言う。

「それは……」

 冷静になって考えてみれば、そうかもしれない。いや、でも、瑛二も俺を揶揄ったかもしれないわけで……。普通、三日で他のやつに鞍替えとか出来ねぇだろ? ん? あれ、でも、さっき、俺の好きな人って言って……。

「ちっか! なんだよ?」

 頭の中でまたぐるぐる考えていたら、いつの間にか、千早が俺の間近まで来ていた。
 すごい至近距離から顔面を見てくる。