「ん……」

 じりじりと寄ってきて、触れるだけのキスをする。

「上出来」
「ふふっ」

 優しく頭を撫でると、千早はそうでしょう? という顔で笑った。
 だが、同い年とは思えない幼い顔が、いきなり表情を失う。
 なんだ? と思えば

「あの、あのさ、龍生は、僕のこと好きなの……?」

 至近距離から上目遣いで見つめられて心臓に悪い。

「じゃなかったら、こんなことしてねぇだろ?」

 別に逃げじゃねぇんだが、また唇にキスをしようとすると、手で口元を押さえられた。
 まるで猫が嫌がって飼い主にやるときみたいだ。

「ちゃんと言葉にしてよ」

 むぅっと頬が膨らんで、千早は不機嫌を露わにした。
 めんどうくせえ彼女みたいな言い方をしてくるが、そこもこいつの愛嬌だなと思う。
 こいつ以外に言われてもイラッとするだけだが。

「千早」

 おもむろに口元を押さえている手を取って、名前を呼びながら指を絡める。

「ん」

 その小さな手の持ち主は期待するように目を細めた。

「愛してる」

 姫様の望みのままに躊躇わず、そう口にした。
 まさか、そんな言葉が俺の中から出てくるとは。

「よくできました」

 へへっと幸せそうに笑う顔を見ていると、離れたくないと思えてくる。

「高校卒業したら、一緒に暮らすか?」

 気付いたら、そう口にしていた。
 我ながら、急なプロポーズみてぇだと思う。

「ふぇっ、うべぇえええっ」
「なに泣いてんだよ?」

 突然、なんの前触れもなく千早が号泣しはじめて、ぎょっとした。

 顔に似合わずきたねぇ泣き方。
 よくこんなにコロコロ表情が変わるもんだ。

「だって……っ、だって、それ、僕の夢だったんだもん……っ」

 しゃくり上げながら、千早が必死に言葉をこぼす。

「は? 夢?」

 そんな言葉聞いたの、小学校の作文発表以来だ。
 まあ、千早なら、小さい頃から作文にもそういうの書いてそうだが。

「しょ……ぐすっ、将来、王子様と暮らすの……っ。でも、僕……っ、きっと迷惑かけるよ……?」

 涙と鼻水でぐしょぐしょなのにぜんぜん幻滅する気が起きない。
 不思議だ。

「これ以上の迷惑、どうやってかけんだよ? ほら、鼻かめ」

 テーブルからティッシュを取って、千早の鼻を覆う。

 ――夢とか言われんの悪くねぇな。

「りゅうせいぃぃ……っ、好きぃぃ……!」

 鼻かめって言ってんのに、さらに号泣するって、ほんとバカだな。

「ふっ、知ってる」

 ティッシュをたくさん千早の鼻に添えながら、思わず微笑む。ほんと……

 バカ、カワイイ。