男たるもの、高校生になれば誰しも身長が伸びると思っていた。

「コタ、今日も小さくて可愛いねっ」
「やめ、小さいって言うな!」

 長い茶髪をゆるく巻いた美香が背後から俺にがばっと覆い被さり、俺の頭を乱暴に撫でてきた。傷んだ金髪を撫でてなにがそんなに楽しいのか。

 帰りのHRが終わった途端、自然といつもの一軍メンバーが俺の周りに集まってきて、騒がしい時間がはじまる。
 周りからは、イケてる派手なメンツが集まっていてキラキラして見えるだろう。

「そんなこと言ったって、可愛いもんね虎太郎は。なんか小動物みたい」

 にこにこ笑いながら金髪ストレートの日和が美香の横にやってきて、同じように俺の頭を撫でた。
 
 数年前、身長170㎝の男の人権がどうのこうのと騒がれていたときがあったが、俺の身長はそれよりもはるかに低い。160㎝もない。細かい数字は言いたくない。
 小さいからって女子はべたべたひっついてくるし、俺が野蛮な男だったら、どうするんだか……、悲しいことに低身長のせいで確実に無害だと思われている。

「小動物言うな。――くっそ、名前に、こ、とか入れるから背が伸びねぇんだよ」

 小と書いて「こ」と読むじゃんか。
 虎だとしても、同じ読みだとなんか不吉だ。
 絶対呪われてる。

「お前の、こ、の部分は一番大事な部分だろ」

 俺の隣で頬杖をつきながら、龍生が呆れたように言った。
 龍生は高一のときから身長がでかくて、羨ましいくらい存在感がある。

「そうそう、なくしたら太郎になっちゃうよ」

 美香が俺にくっ付いたまま言う。

「太郎って、なんか日本昔話みたいじゃん」

 日和は高い声で笑いながら俺の肩を何度も叩いた。

「いてっ、おい、失礼だろうが、全国の太郎さんに謝れ」
「お前が、こ、いらないって言ったんだろ」

 俺にツッコミを入れるような龍生の言葉に、美香と日和がきゃははと笑う。

「龍生はいいよな。身長も180超えてるし、名前もかっけえし。だって、龍に生きるだぞ?」

 はぁ……と溜息を吐きながら俺は龍生にじとっとした目を向けた。
 本当に羨ましい。
 俺だって、龍生くらいの身長と体格があれば、きっと彼女の一人や二人くらいできていたはず。

「お前はまだ女どもに近寄られてるだけ良いだろ」

 眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔で龍生は美香と日和を見た。
 ほうほう、自分は近寄りがたい野獣的なのをアピールですか。

「だって、龍生は冷たいし、絶対女の子のことお姫様扱いしないし、なんか乱暴にされそうなんだもーん」

 冗談めかした声で美香が言う。

「勝手に思ってろ」
「ほら、そういうとこ」
「こわーい」

 クールに言い放つ龍生とまんざらでもない様子の日和と美香。
「まあ、そこがかっこいいんだけどね」って二人で小さく言ったの俺には聞こえてんだからな?

 ほんと面白くない。ぜんぜん面白くない。

「じゃ、ま、俺帰るわ」

 俺は鞄を持って、美香と日和の腕からするりと抜けた。

「えー、もう帰るの?」
「なんでー?」

 美香と日和が本心なのか分からない甘い声で言う。
 どうせ癒しがどうのとか、また訳分からんこと考えてるんだろうな。

「用事があんの」
「なんの用事だよ、彼女もいねぇのに」
「うっせ」

 鼻で笑う龍生に短く文句を返して俺は教室をあとにした。